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ボクサーの拳は「凶器」扱い 殴られてもやり返せない、は法律上どこまで本当か

   プロボクサーの拳は凶器、だから自分の身を守るため相手を殴り返しても、正当防衛は適用されない――そんな話を昔からよく聞く。

   とすれば、ボクサーはひとたびケンカに巻き込まれれば、どんな目に遭ってもひたすら耐えるしかないのか?

   そう憤慨するのは、ボクシングでかつて世界2階級を制した長谷川穂積さんだ。長谷川さんは2013年9月9日のブログで、後輩ボクサーを襲ったある災難を明かした。

ヤンキーに囲まれて後輩がボコボコに…

「なんかすげー理不尽で腹立つから書く」

   長谷川さんによると、後輩のあるプロボクサーが、突然「多数のヤンキー」に絡まれ、激しい暴行を受ける事件があったという。後輩は「拳は凶器」という上述の話を愚直に守り、一切手を出さずガマンしていたが、結果として「ボコボコに」痛めつけられてしまった。この話を聞いた長谷川さんは、

「プロボクサーは凶器だから手を出したらダメて法律はなんのため? 打ち所が悪くて事故になることがあっても、プロボクサーだから手を出すなてこと?」
「1対10でも凶器だからだめてことか?」
「ただプロだから殴ってはだめという法律は納得いかない」

と激しく憤る。

   長谷川さんが言う「法律」とは、実際にはいわゆる「正当防衛」のことを指していると思われる。刑法第36条では、身に危険が差し迫った場合に限り、妥当な範囲内で「反撃」しても罪に問われない、あるいは罪が軽くなると定めるが、凶器を持ち出すなど反撃の度が過ぎると「過剰防衛」になる。ところがボクサーなど格闘技経験者の場合、素手であってもその攻撃力を考慮して、「過剰防衛」となるケースがままあるという。

「確かに反撃した場合、普通の人なら正当防衛が認められるような状況でも、ボクサーだと防衛相当と認められないということは多いですね」(板倉宏・日本大学名誉教授(刑法))

   「ボクサーの拳は『凶器』扱い」という話は、確かにある程度事実らしい。

「多人数に囲まれてなら正当防衛になる」

   しかし、板倉名誉教授は「どんなときでも正当防衛が適用されない、というわけではない」とも付け加える。たとえば今回のように多人数に囲まれて、というような場合ならば、「正当防衛になるでしょう」(板倉名誉教授)。

   実際、無事正当防衛を認められたプロボクサーもいる。誰あろう、タレントとしても有名なガッツ石松さんだ。

   1972年、ガッツさんの弟が池袋の路上で泥酔した十数人のグループともめ、袋叩きにあった。これを聞いたガッツさん(当時23歳で東洋王者)は「よっしゃあ!」と裸足のまま急行(当人の著書より)、数分のうちに1人で相手を全員のしてしまった。当時の新聞報道によれば、

「現場にかけつけた石松は、なぐられている弟を見ると8人に飛びかかり、左右のストレート、フックの連打であっさり8人をノックアウト」(朝日新聞、72年10月16日付夕刊)
「このケンカで鈴木石松(※ガッツさん)だけはけががなかったが、残りはほとんどが顔や頭に最高5日間のけがをした」(スポーツニッポン、72年10月17日付)

   ガッツさんはいったん逮捕されたものの、正当防衛が認められ間もなく釈放されたという。「ボクサーは正当防衛が認められない」という説も、時と場合によりけりというのが正しいようだ。