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福島5、6号機に唐突な「廃炉要請」 安倍首相の真意はどこに? 誰が負担する?

   安倍晋三首相は2013年9月19日、東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)を視察し、5号機と6号機の廃炉を東電に求めた。

   両機は1~4号機に比べればかなり被害が少なく、安定した状態が続いてきた。唐突とも言える廃炉要請だが、安倍首相の真意はどこにあるのか。

震災発生以来「冷温停止」状態続く

福島第1原発で関係者を激励する安倍晋三首相。廃炉要請の真意はどこにあるのか(東京電力提供)
福島第1原発で関係者を激励する安倍晋三首相。廃炉要請の真意はどこにあるのか(東京電力提供)

   1~4号機については3011年3月の東日本大震災発生直後に東電が廃炉の方針を打ち出しており、13年8月には原子力規制委員会が廃炉計画を認可した。5、6号機については、6号機の非常用ディーゼル発電機がかろうじて津波の被害を免れたため冷却を継続でき、原子炉内の水温が100度未満の「冷温停止」状態が続いてきた。東電はこれまで5、6号機に関する方針については明言してこなかった。地元の反発などもあり、再稼働は絶望的だとみられていたが、規制委が認可した廃炉計画の中でも、5、6号機については冷温停止を安定的に継続するための対策が盛り込まれている程度だった。

   安倍首相は、廃炉要請の理由を「東電が汚染水処理などの事故対応に集中するため」と説明したが、唐突感は否めず、法的根拠も不明だ。そのため、同日の菅義偉官房長官の会見では、これらの点に関する疑問が続出した。廃炉要請を事故現場訪問のタイミングに合わせた理由については、菅氏は

「事故対応にしっかり集中する意味合いもあってそうした方がいいだろう、という判断を総理がされたのだろう(と思う)」

と、かなり分かりにくい説明に終始した。

「全く問題なく停止している炉なのだから、別に置いておけばいい話」

   記者からは

「全く問題なく停止していて、無傷の原発を廃炉ということころまで決断する必要があるのか。事故対応に集中するのも分かるが、全く問題なく停止している炉なのだから、別に置いておけばいい話であって、どうも因果関係が分からない」

と、そもそも根拠が不明だとの声も出た。菅氏は

「地元の多くの人から『即廃炉してほしい』という強い陳情が政府に届いていたことは事実。そういう意味で、政府と東電が一丸となって、この事故処理は対応していなかければならない」

と述べた。福島県が福島第1原発5、6号機と第2原発1~4号機の廃炉を求めていることが背景にあるようだ。

「5、6号機が再稼働した場合の遺失利益など、総理は考えて判断しているのか」

との問いにも、菅氏は「地元の要望」を繰り返した。

13年中に廃炉費用を利用者に転嫁できるようになる

   会見で指摘されているように、財政面の壁も立ちはだかる。設備の減価償却が終わっていない上、廃炉の引当金も不足している。現時点で廃炉を決めれば東電は少なくとも1800億円の損失処理を迫られる。

   ただ、経産省は13年夏、廃炉決定後も10年間は廃炉金の積み立てと設備の減価償却を認め、その費用を電気料金に転嫁できるようにする会計制度を打ち出している。この制度は年内にも導入される見通しで、廃炉費用は利用者が負担する形になる。

   安倍首相としては事故現場で「地元の声」に応える様子をアピールする一方、制度面の地ならしができたこともあって、このタイミングで廃炉要請に踏み切った可能性がある。

   東電は

「今後、関係者の英知を集め、年末までに取り扱いを判断してまいります」

とのコメントを出している。