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「LCC元年」から1年、明暗クッキリ ピーチは成田乗り入れ、エアアジア「一時撤退」

   「LCC元年」と言われた2012年から1年以上が経ち、国内市場に参入したLCCの間でも明暗が分かれつつある。関西空港を拠点にするピーチ・アビエーションは2013年10月27日、初めて成田空港への乗り入れを果たした。すでに関西では一定の知名度があるピーチが、首都圏の新たな需要の開拓に乗り出す。

   その前日の10月26日には、搭乗率低迷の末にマレーシアとの合弁を解消した「エアアジア・ジャパン」が営業飛行を終了。同社は12月に「バニラエア」として再スタートすることが決まっている。レジャー客にターゲットを絞ったり、深夜便を飛ばしたりして新たな需要を開拓し、起死回生を狙う。

成田乗り入れで首都圏在住者には乗り継ぎが便利に

ピーチ成田初便の「MARIKO JET」を背にする篠田麻里子さん
ピーチ成田初便の「MARIKO JET」を背にする篠田麻里子さん

   ピーチは12年3月に就航。現時点では関西空港から札幌(新千歳)、福岡、沖縄(那覇)、石垣など7都市、国際線はソウル(仁川)、釜山、台北(桃園)、香港の4都市を結んでいる。今回の成田乗り入れで、首都圏在住者には乗り継ぎが便利になる。井上慎一CEOによると、元々ピーチには首都圏在住の利用者が一定数いることから、成田-関空線を開設すれば、新たな需要を掘り起こせると判断したという。主なターゲットは、20~30代女性のレジャー需要だ。

   井上CEOは、

「(成田-関西の運賃と)合算しても海外に安く行ける」

とアピールした。

   ピーチには海外のファンド以外にANAホールディングス(HD)が38.67%を出資。「株主へのコミットメント」として13年度中の単年度黒字化を目指す。

   ピーチは成田就航にあわせて、モデルの篠田麻里子さんをCA(カンパニー・アンバサダー=企業大使)に起用。関空発成田行きの初便は、篠田さんの顔が描かれた特別塗装機「MARIKO JET」で運航され、8時20分頃乗客166人を乗せて成田に到着した。篠田さんがタラップから降りてくると、報道陣からは篠田さんの代表曲にちなんで「これが本当の『上からマリコ』だ」という声ももれた。

エアアジアは就航わずか1年3か月で「転進」

約50人の社員がエアアジアの成田発のラストフライトを見送った
約50人の社員がエアアジアの成田発のラストフライトを見送った

   「来る」航空会社もあれば、「去る」航空会社もある。

   10月26日夜、成田を拠点にするエアアジア・ジャパンがラストフライトを迎えた。12月からは「バニラ・エア」として再出発するが、エアアジアは12年8月に就航したばかり。わずか1年3か月で方向転換を迫られたことになる。

   LCCは比較的短距離の路線を何度も運航することで利益を出すのが基本的なビジネスモデルだ。だが、航空機の数が十分で調達できなかったため、ひとつの便が遅れると後続の便にも「玉突き」的に遅れが波及する問題や、騒音に配慮して成田空港が6時から23時の間しか運用できない「門限問題」に悩まされた。

   その結果、定刻から15分以内に出発できた便の割合を示す「定時運航率」は、13年4~6月の主要航空会社10社の定時運航率は94.6%だったのに対して、エアアジア・ジャパンは74.9%。ピーチは86.2%で、エアアジアはLCCの中でもかなり低い水準だった。

   この使い勝手の悪さも客離れにつながった。当初はANA HDとマレーシアのエアアジアとの合弁企業として運営されていたが、6月末にはマレーシアのエアアジアが出資を引き上げ、ANA側が事実上「引き取る」形でANA HDの100%子会社になっていた。

深夜・早朝便で稼働率アップ目指す

   エアアジア・ジャパンは最大で5機を運用していたが、マレーシアにすべて返却する。改めて2機をANA HDから調達し、路線も当初は成田と沖縄(那覇)、台北(桃園)の2つに絞り込む。14年1月29日に札幌(新千歳)、3月1日にソウル(仁川)便が開設され、順次拡大を予定している。2015年後半には10機体制を目指す。

   石井知祥社長は、

「できるだけ早く新しい機材を導入して、路線を選択して集中的に複数便を(飛ばしたい)」

と話す。中でも「新たな需要を喚起できる」と期待を込めるのが深夜早朝便だ。例えば台北便のうち、14年1月29日に加わる便では、22時20分に成田を出発し、1時25分に現地に到着。折り返し便は深夜3時に出発し、7時10分に成田に到着する。沖縄便も同様に、3月15日に加わる便は22時10分に成田を出発して1時30分に現地着。早朝5時40分に那覇を出発して成田に8時10分に着く。

「制約はやむを得ないが色々知恵を出せばやっていける」

と、運用制限の中でも機体の稼働率を上げていきたい考えだ。

   「使いにくい」と評判だったウェブサイトもリニューアルされ、11月1日には予約の受付も始まる。石井社長は、

「大幅に改善する。ウェブが苦手な人でも(予約が)取りやすい」

と話した。

   成田発のラストフライトは、定員180人に対して幼児2人を含む乗客142人が搭乗。定刻から約20分遅れの17時15分に社員約50人に見送られて新千歳空港に向けて出発した。

   国内のLCCとしては、2社以外にも日本航空(JAL)などが出資するジェットスター・ジャパンが運航している。12年6月期の決算では、売上高128億円に対して90億円の営業赤字を計上。厳しい経営が続いている。