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日本食は有力な「輸出産業」だ ユネスコ無形文化遺産登録で意気込む

   国連教育科学文化機関(ユネスコ)が「和食 日本人の伝統的な食文化」を無形文化遺産に登録する見通しになった。日本政府が2012年3月に行った登録申請について、事前審査を行うユネスコの政府間委員会の補助機関が新規登録を認めるよう勧告した。

   文化庁によると、過去の事前審査で勧告された提案が覆されたケースはなく、2013年12月上旬に開かれるユネスコの政府間委員会で正式に登録される見込みだ。

TPPで国内農産物に危機感

   これまでユネスコの無形文化遺産に登録された食文化は、フランスの美食術、スペインやイタリアなどの地中海料理、メキシコの伝統料理、トルコのケシケキ(麦がゆ)の4つで、和食(日本食)が認められれば世界で5つ目。日本食がユネスコの無形文化遺産に認められれば、日本の農水産業や外食産業にとっても朗報だ。

   政府は外務省、農林水産省、文化庁が連携し、和食の無形文化遺産登録を目指してきた。それは海外で和食の知名度が上がり、愛好家が増えることによって、和食に使う日本の農水産物や加工食品などを海外へ輸出できるというソロバン勘定もある。

   環太平洋パートナーシップ協定(TPP)でコメや乳製品など農水産物の関税が撤廃された場合、海外から安価な農水産物の輸入が増え、国内農水産物の消費は縮小する可能性が高い。これに危機感をもつ政府は「攻めの農林水産業」と称して、国内の農水産物の輸出を増やすことで、国内消費の減少分を穴埋めする戦略を描いている。海外では中国の富裕層はじめ、日本の「安全でおいしい」高級食材を購入するケースが増えているからだ。

海外の日本食レストランが急増している

   外務省と農水省によると、海外の日本食レストランは2013年3月時点で約5万5000店。2006年の約2万4000店から倍増した。地域別に最も多いのは、アジアの約2万7000店で、北米の約1万7000店、欧州の約5500店、中南米の約2900店と続く。日本貿易振興機構(JETRO)などの調査では、外国人が最も好きな外国料理は日本料理で、外国人観光客が来日前に最も期待するのは日本食だという。

   世界の食の市場規模(外食と加工食の合計)は現在340兆円とされる。農水省は、これが2020年には680兆円に倍増すると予想する。とりわけ中国、インドを含むアジアは現在の82兆円が229兆円と、約3倍に拡大すると見込んでいる。

   このため、食品メーカーや外食関連産業などで組織する「日本食レストラン海外普及推進機構」は、「食材の大口ユーザーでもある海外の日本食レストランの発展とともに、日本産食材の利用拡大を図ることは輸出促進にとっても重要だ」と指摘する。

   同推進機構の茂木友三郎理事長(キッコーマン取締役名誉会長)は「日本の食文化は食材、調理法にとどまらず、器や調度、建築、華道や茶道に代表される精神性、美意識など日本の文化そのものを反映している。日本の食文化は我が国の優れた知的財産であり、世界に発信することで、その文化的・経済的価値を高めていくことが重要だ」と話している。

   農水省など政府もTPPをにらみ、和食の海外展開で国内農水産物の輸出を増やすため、ユネスコの無形文化遺産登録をフル活用する方針だ。果たして狙い通りの成果を収めることができるのだろうか。