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黒田日銀総裁「追加緩和」に含み 金融市場は一段の円安、「織り込みずみ」か

   2013年4月以降、「異次元緩和」と呼ばれる大規模な金融緩和政策を続ける日本銀行に対し、追加の緩和策への期待が金融市場に高まっている。

   黒田総裁もこのところ「(金融)政策の余地はある」と含みを残す発言をしており、期待感を高める格好となっている。黒田発言には円高阻止の強い意志をくみ取る向きもある。

一歩踏み込んだ発言と受け止められる

金融市場は「緩和」に期待
金融市場は「緩和」に期待
「2%の物価目標実現を目指すなか、物価や経済情勢について上下双方向(上ぶれ、下ぶれ両方)のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていく」

   日銀の黒田総裁は11月21日の金融政策決定会合後の記者会見でこう答えた。「欧州中央銀行(ECB)が11月7日に市場予想に反して過去最低金利に利下げしたことなどを踏まえ、市場に日銀にも追加緩和期待があることをどう見るか」との質問に対してで、これまで述べている見解を改めて繰り返した。

   ただ、重ねて「金融を引き締める方はともかく、異次元の大胆な緩和をしながら、さらに緩和する有効な手立てはあるのか」との質問に「上下双方向の調整のやり方は、いろいろある。政策の余地はある」と答えたのだ。

   「方法を話すのは時期尚早」とも語ったが、「やり方はある」と言うからには、その前提として具体的なイメージを持っているはずで、従来の言い回しと比べ追加緩和に一歩踏み込んだ発言との印象を持たれた。「上下双方向」とは言うものの、今の日本で「激しいインフレが収まらず困る」といった「上方向」のリスクは想定しがたく、黒田総裁の念頭にあるのは追加緩和と見て間違いない。

   黒田総裁は翌22日の国会審議でも、「安定的な2%の物価目標の実現を乱すリスクが生じれば、必要な調整をとる用意がある」と述べ、改めて追加緩和に含みを持たせた。金融市場は日銀の追加緩和を織り込み始めた可能性があり、総裁会見と前後して外国為替市場で円安・ドル高が進み、1ドル=100円台は固めたような趣きとなっている。

総裁の沈黙は緩和競争に出遅れる

   黒田総裁が警戒しているのは、欧米中銀との「緩和競争」に破れ、日本経済が再び円高の淵に沈むことかもしれない。

   ECBは11月7日に政策金利を0.25%と過去最低に引き下げたが、消費者物価が想定通りには上がっていないなか「次の一手」の観測も浮上している。利下げする余地が小さいだけに、日銀や米連邦準備制度理事会(FRB)のような大量の国債買い入れによる量的緩和策に踏み切る、との見方だ。

   FRBはハト派(金融緩和派)の代表格である、イエレン副議長が来年2月に議長に就任することが決まっている。現在のバーナンキ議長は今年5月以降、「年内の緩和縮小開始」をたびたびほのめかして金融市場を右往左往させてきたが、11月に入って「決められたコースはない」と述べて事実上撤回。後任のイエレン氏は既に緩和長期化を示唆している。欧州の金融緩和は強まり、米国の緩和は縮小せず継続することが想定されるのだ。

   日銀も毎月、新規発行国債の7割相当を買い入れる大規模な緩和策を導入しているとはいえ、総裁の沈黙は緩和競争に出遅れることになりかねない。実際、白川方明前総裁時代は五月雨式に緩和したにもかかわらず、発信の下手さなども手伝って円高を脱却できなかったと評される。黒田総裁の本当の胸の内は分からないが、ひとまず一段の円安を招いたことは成功と考えているかもしれない。