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シャケ弁は「ニジマス弁」「サーモントラウト弁」に? 表示制限で消費者はかえって混乱しそう

   「鮭(シャケ)」と名前のついた数々のメニューが改名されるかもしれない。消費者庁は、公表したメニュー表示のガイドライン案の中で、サーモントラウト(標準和名:ニジマス)を「鮭」や「サーモン」として表示することについて景品表示法上「問題」と指摘した。

   サーモントラウトはあまり聞きなれない名前だが、弁当の具材や寿司ネタとして巷ではすでに広く出回っている。関係者からは見直しを求める声もあがるが、実際に口にする消費者は賛否両論のようだ。

日本で流通しているのは海中養殖のもの

その鮭、サーモントラウトかも?(画像はイメージ)
その鮭、サーモントラウトかも?(画像はイメージ)

   消費者庁は、ホテルや百貨店で食材の偽装表示問題が相次いだことを受け、2013年12月にメニュー表示にまつわるガイドライン案を作成した。過去にあったケースを中心に35の具体例をあげ、景品表示法上問題となるかどうかをそれぞれ示している。そのうち必ずしも問題にならないとしているのは、解凍した魚を「鮮魚」と表示するなど4例のみで、多くの中華料理店で発覚した「バナメイエビ」を「芝エビ」と表示するケースをはじめ、一般的なねぎを「九条ねぎ」、牛の形成肉や牛脂注入肉を「ビーフステーキ」または「ステーキ」と表示するといった31例は全て「問題になる」と指摘する。

   2014年1月27日には東京都内で意見交換会が開かれ、外食産業の関係者や消費者団体の代表などがガイドライン案の内容について話し合った。報道によると、意見交換会に出席した消費者団体からは、何を食べているか分からないのは問題だとして「本当の名前をしっかりと表示してほしい」という意見が出たという。しかし一方で外食産業側からは、一部食材についてはすでに名称が認知されているために「表示できなくなることで消費者を混乱させてしまう」という懸念もあったそうだ。

   中でも議論を呼んでいるのが、鮭(シャケ)、サーモンとして使用されることの多い「サーモントラウト」だ。主にチリやノルウェーなどで養殖されるサケ目サケ科の食用魚で、日本では「ニジマス」の和名がついている。身はピンクがかったオレンジで、味にもくせがない。淡水のみで生息する「陸封型」と海に下る「降海型」がいるが、一般的に日本で流通しているのは海中養殖のものだという。

   ガイドライン案では、「魚介類の名称は原則として種ごとの名称(標準和名)を表示することが推奨されている」とした上で、サーモントラウトは標準和名が「ニジマス」であり「サケ」の魚とは異なる魚介類とされるとして「問題になる」との見解を示している。13年11月には、藤田観光が「スモークサーモン」など複数のメニューで「サーモン(鮭)」ではなく「サーモントラウト」を使用していたとして謝罪している。

吉野家の牛鮭定食「特に変更する予定もございません」

   ところが、外食産業側からはこの見解に戸惑う声が相次ぐ。意見交換会では、「消費者はニジマスが白身魚との認識が強い」「市販のスモークサーモンの大半はサーモントラウトである」として見直しを求める意見が複数あがった。実際に、切り身を焼いた「シャケ弁当」や、寿司でも人気の高い「サーモンのにぎり」、コンビニで販売される「鮭のおにぎり」などにも使用される例が少なくない。たとえば、大手コンビニチェーン「ファミリーマート」では以前から一部商品で使用しているという。28日に発売されたばかりのおにぎりも原材料名には「サーモントラウト」と記されているが、商品名はあくまで「魚沼産コシヒカリ 鮭ハラス」となっている。

   また、牛丼チェーン「吉野家」で提供されている「牛鮭定食」には、販売開始以来「サーモントラウト」が使われているが、消費者への案内は特にない。広報担当者に話を聞いたところ、「一般的に海で育てば『サケ』、川で育てば『マス』とされていますので、弊社で使用している海水養殖のサーモントラウトもそれに則って『サケ(鮭)』と表記しています。間違っているという認識はなく、今のところ特に変更する予定もございません」という。とはいえ、仮にガイドライン案どおりとなれば、今後これらの商品は「サーモントラウトにぎり」「牛ニジマス定食」などの表示に変更せざるを得なくなりそうだ。街の弁当屋からも場合によっては「シャケ弁」が消えるかもしれない。

   一般消費者からは「ちゃんと正しい魚の名称使えよ」「これは正直に表記すべきだろ。メインなんだし」「食材、聞き慣れない名前になっていいよ。正確な方がいいよ」という声がある一方、「どこまで厳しくするかは考え所なんだろうな」「最近の消費者がヒステリックすぎるのではないか」と擁護する声も上がり、意見が分かれているようだ。なお、すでに「改名」している弁当屋もあるようで、タレントのクリス松村さんは1月27日のブログで見慣れない名前の「トラウト・サーモン弁当」を食べたと報告し、「シャケはシャケで、ニジマスはニジマスの良さがあって、両方とも美味しいわけですから、これで、一件落着ですね」と綴っていた。