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同人作家「年収1000万円はザラ」本当なのか 専業も夢じゃないとネットで驚きの声

   今や市場規模700億円ともいわれる「同人誌」。作家の販路も多様化し、消費者も気軽に手に取れるようになっている。とはいえ、実際に売れるかどうかは実力次第で、同人誌販売だけで食べていくというのは至難の業だ。

   ところが、あるネットニュースの記事をもとに「年収1000万円の作家はザラ」「6000万以上は300人以上」といった情報が広がり、多くの人を驚かせることとなった。

「6000万以上は300人以上」?

   2013年夏、日本最大の同人誌即売会「コミックマーケット84」(コミケ)には過去最多となる59万人が来場し、熱気に包まれた会場の様子はテレビのニュース番組でも取り上げられた。矢野経済研究所の調査によると、同人誌の市場規模は2011年度で690億円。即売会だけでなく、専門書店での委託販売やネット上でのダウンロード販売なども含んだ数字だ。同研究所は「ユーザー数の増加や流通チャネルの多様化」を考慮し、2012年度は716億円になるとも予測していた。

   同人誌が巨大マーケット化する中で、気になるのが同人作家の懐事情だ。作家の多くは「趣味の範囲」で活動しているため、大半は費用持ち出し、利益があったとしても印刷代や即売会出展費用などを引くとごくわずか。かなりの儲けが出るのは一部の人気作家のみで、それでも同人一本で食べていくほど稼ぐのは難しいというのが一般的な認識だ。ところが、インターネット上ではそんな認識を覆す「年収1000万円の作家はザラ」「6000万以上は300人以上」といった情報が広がった。

「納税を『チョロまかしている人』も多い」?

   もとになっているのは「同人誌ブーム」を取り上げた「ブッチNEWS」の2014年2月4日配信の記事だ。商業漫画業界の不況を指摘する一方、同人誌業界は夢があるいう趣旨で書かれ、中見出しには当初「同人誌では『壁際』では年収1000万の作家もザラ」とあった。「壁際」とはコミケ会場内の壁際スペースのことで、主に人気サークルや大手サークルが配置されることで知られる。例年コミケには約3万5000のサークルが出展しているが、複数のネット上の検証によると「壁サークル」の3日間合計数は1700~1900程度だという。年収1000万円越えが「ザラ」となれば、かなり夢が持てそうに思える。

   さらに記事では「納税を『チョロまかしている』者も多いという」とも紹介し、例として07年に明るみになった同人作家S氏の所得過少申告問題に言及している。S氏の所得は3年間で2億円と伝えられ、単純計算すると年6666万円だが、記事では同クラスの同人作家が「コミケ出展者の中だけで少なくても300人以上はいるという」と伝えた。

   記事が公開されると、同人誌事情に馴染みのない人たちからは「え!?同人誌って1000万も稼げるんですか!?」「そんなに売れる物なのか」「まじかよ俺もやるぞ」「すげえええええええ夢があるなー 」などと、ただちに反響を呼んだ。だが、疑問を抱いた人も少なくない。現状を知る人たちからは「ピラミッドの最頂点の角っちょだけだよ」「ザラって分母どれだけでかいと思ってんだ」「こんな想像記事から同人は儲かるって幻想が広まっていくんだろうなぁ」といった冷静な意見が相次いだ。

商業漫画と同人誌の両方で活動する人が増える

   ある男性同人作家はJ-CASTニュースの取材に対し「年収1000万円はコミケ以外のイベントにも頻繁に出展している人なら頑張れば届きますが、ザラというほど多くはないでしょう」と話す。「6000万円クラスが300人以上」については、「これはありえません」と断言。S氏の場合は、年間に出した同人数の種類も多く、ネットで批判されるほど暴利な売り方をしていたなど「特殊」なケースであり、「実際は本当にごくごく一部という感じです」という。

   さらに、記事の最後にあった「あえて商業誌デビューを目指さず、同人誌で生きていく作家が増えているのも当然だ」という見解にも、「増えているとは思えない」と疑問を呈し、「むしろ『同人活動をしながら、商業誌デビューを目指す人』が増えている」と話した。

「最近では、同人誌で利益をあげている人の多くは、商業漫画と同人誌の両方で活動されています。理由はいろいろとありますが、商業漫画全体の売り上げが落ちてきているため、商業漫画だけでは食べていきづらくなってきたから同人誌を描いている、という人も多いと思います。出版社にとっても同人即売会は『新人作家発掘の場』となりつつありますし、同人活動の収入で補ってもらう意味もあり『商業作家の同人活動』に寛容な出版社も増えています。商業漫画業界と同人業界は持ちつ持たれつの関係になっていて、どっちの業界がどうだ、という話ではなく、もはやお互いの業界にとってお互いがなくてはならない存在になっているということです」(同作家)

   なお、ネット上の声を受けてかブッチNEWSの記事は5日のうちの幾度もの修正が入り、中見出し部分は「『壁際』の一部では年収1000万の作家も」と変更され、税金をチョロまかしている人は「多いという」から「もいる」に変更、「300人以上」の記述にいたっては削除された。他に細かな注釈も加えられ、文章から受ける印象は当初とはだいぶ異なるものになった。変更に関する説明はなく、5日にブッチNEWS編集部に問い合せてみたが、返答はなかった。