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子育て支援財源4000億円不足 保育職員増加や給与アップなどは先送り

   2015年度からの新たな子ども・子育て支援制度で、2017年度までに4000億円にのぼる財源が不足する事態になっている。

   保育所の定員40万人増など量の確保を優先するため、保育職員の増加や給与アップなど質的な改善は先送りせざるを得ない状況で、保育関係者などを中心に財源確保を求める声が強い。内閣府は「予算編成の過程で財源確保に取り組む」と説明しているが、見通しは立っていない。

約1兆1000億円から総額を7071億円に圧縮

   新制度は消費税増税に伴う社会保障充実の目玉で、大都市で深刻な問題になっている待機児童をなくすため、政府は認可保育所の新設など保育の「量の拡大」と、認可外の施設の職員増や待遇改善など「質の改善」に財源を振り分けることとされている。政府は14年3月11日、その具体的使途をめぐる原案を自民党に示したが、本来の計画からは大きく後退する内容だ。元々、消費税から約1兆1000億円を子育て支援などに回すことになっていたが、約35%にあたる4000億円弱分を確保するメドが立っておらず、総額を7071億円に圧縮。内訳は、保育施設の定員を40万人分増やす「量」の拡大にはほぼ予定通り4068億円を充てる一方、「質」では想定していた6865億円を大きく下回る3003億円に絞っている。

   詳しい中身を見てみよう。「3歳児20人に1人」という現行の保育士の配置基準を「15人に1人」に改善するための費用(700億円)は当初方針通り確保。定員19人以下の小規模保育施設で、保育職員を基準以上に配置するための費用(134億円)、児童養護施設の職員配置基準の改善費(222億円)なども満額盛り込んだ。

「保育士の待遇を改善しないとなり手が不足する」

   しかし、1、4、5歳児対象の保育士増員(計1261億円)は先送り。保育所職員らの給与を5%アップするための費用も予定の6割にあたる571億円しか確保できず、給与アップは3%にとどめることになる。また、子どもが小学校1年生になると預け先がなくなる「小1の壁」を解消するため、当初は午後6時半以降も開く小学校の「放課後児童クラブ」すべてに1人の常勤職員を配置する計画だったが、非常勤職員の処遇改善などにとどめる。

   さらに、低所得世帯への負担軽減策拡充は先送りし、住民税非課税世帯の学用品などを全額補助する計画も生活保護世帯に限定したうえで補助額も半分に――といった具合だ。

   新制度の具体策を議論していた内閣府の「子ども子育て会議」では、政府の原案を議論した2月14日の会合で、「保育士の待遇を改善しないとなり手が不足する」「親元で暮せない子のための社会的な養護の改善が必要」などの意見が噴出した。

「手をこまねいている間に出産適齢期の女性は急減しつつある」

   同会議の委員33人のうち31人はこの後、森雅子少子化対策担当相に対して、必要な財源を政府の責任で確保するよう求める要望書を連名で提出。「地方自治体で準備を本格化させる時期を迎えても、いまだ明確に約束されていない」などと批判した。自治体や保育関係者にすれば、当然の批判だろう。

   勢い、マスコミの論調も厳しい。例えば毎日新聞は2月21日朝刊の社説で、特に「子どものためには(保育の)質の向上がもっと論じられるべきだ」として、保育先進国スウェーデンの例を引くなどして、「被虐待児や発達障害児など特別なニーズを持った子どもは増えている。質の高い保育士の育成、実績を積んだ保育士が職場に定着できるような待遇改善は不可避だ」と、財源確保の必要を強調。日ごろ、安倍内閣に好意的論調が目立つ読売新聞も2月16日の2面解説記事で、子育て支援の少子化対策としての側面を特に取り上げ、少子化対策には常に財源が壁になってきたことを指摘。「手をこまねいている間に出産適齢期の女性は急減しつつある」として財源確保を急ぐよう強く迫っている。