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【震災3年 復興へ前を向く(4)】
釜石で「ラグビーW杯」開催を 若者たちは街の活性化を信じて活動

   津波で壊滅的な打撃を受けた岩手県釜石市鵜住居(うのすまい)地区は、がれきが片付いたものの、ダンプカーや工事用車両が進む先は延々と空地が広がり、荒涼とした雰囲気が漂う。

   本当に「復興した」と言えるまで、何年かかるか――。先が見えにくい現状だが、それでも地元に明るい未来をもたらす目標として国際イベントの誘致に動き出した若者に出会った。

新日鉄釜石7連覇の「ラグビーの街」

遠藤さん(右)と廣田さんはラグビーW杯の釜石開催実現に情熱を注ぐ
遠藤さん(右)と廣田さんはラグビーW杯の釜石開催実現に情熱を注ぐ

   釜石は「ラグビーの街」で知られていた。社会人ラグビーの新日鉄釜石は、1978年から日本選手権7連覇の偉業を達成し、街の象徴的な存在だった。時を経て2019年、日本で初のラグビーW杯が開かれる。そこで釜石での試合開催を実現しようと活動するのが、遠藤ゆりえさんだ。NPOの代表を務め、2013年には鵜住居地区に「ラグビーカフェ」を開設して内外への情報発信に努めている。

   もともと国際交流に関心があり、震災前にはラグビーの本場ニュージーランドへ留学した。ちょうどW杯が開催されていた時期で、街は高揚感にあふれていた。「あの雰囲気を持ち込みたい。W杯のような国際的なイベントを釜石に呼べば、必ず地元の活性化につながるはず」と考えた。

   ただ、現実的な課題は多い。カフェは人家のない空地の中に「ぽつん」と建っている。アクセスが簡単ではなく、「ちょっと買い物帰りに寄ろうか」というわけにはいかないだろう。遠藤さんもその点をわかっていて、「出張カフェ」を企画してPRの機会を増やしたいが、今度は人手不足が立ちはだかる。

   地元民のラグビー熱も、いまひとつだ。カフェの常駐スタッフ、廣田一樹さんは「地域の人とW杯の釜石開催について話しても、反応は『まあ、やってもいいんじゃない』という程度です」と明かす。「日本選手権7連覇」は30年以上前の話。当時と今とでは温度差が生じているのも、無理はないのかもしれない。

若者が街を離れていたら本当の復活は望めない

ラグビーカフェの中には、名門チームのジャージが展示されていた
ラグビーカフェの中には、名門チームのジャージが展示されていた

   それでも遠藤さんは、W杯が釜石に活力をもたらすと信じて疑わない。「震災前から、街は過疎化に悩んでいました。復興で、たとえ建物が元通りに整備されても、住民にとって目標になるような『楽しみ』がなければ、街の再建が果たせるでしょうか」と訴える。廣田さんも「今は住宅再建が最重要で、ラグビーどころじゃないと考えるのは理解できます。でも、住居など『ハード』の面で充実したとしても、その時に大勢の若者が街を離れていたら釜石の本当の復活は望めません」と話す。

   現状では、ラグビーを習う地域の子どもを招いてのパーティーや、釜石在住の外国人と地元民との交流会開催と、小規模ながら地道な活動を積み重ねている段階だ。懸案の出張カフェや、新日鉄釜石の流れをくむ地元のラグビークラブ「釜石シーウェイブス」との交流も視野に入れる。

「ニュージーランドW杯で感じた、人と街の熱と一体感を釜石でも実現したい。そうすれば地元の人と、世界中からやってくる観客との交流も生まれるでしょう。復興の先に釜石が国際色あふれる街になれば……そんなビジョンを掲げています」

   遠藤さんは笑顔を見せた。