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高橋洋一の自民党ウォッチ
訪日・訪韓で透けて見えるオバマ2面戦略 中国「封じ込め」「取り込み」の双方に利用

   昨日4月23日(2014年)来日したオバマ大統領は、明日25日に韓国を訪問する。韓国は、旅客船沈没の対応で手一杯であり、事故後の対応の不手際で政府に対する批判が出ている。未だに、行方不明者が多数いて、明日までに事故処理のめどは全くたたない。その中、韓国国内で自粛ムードが広がり、オバマ大統領の歓迎ムードはない。

   ただ、このオバマ訪韓は、韓国内における朴政権批判を一時期和らげる、予想外の効果があるだろう。

中国を意識して、バランス取る米国

   今回のオバマ大統領の訪日は、日本、韓国、マレーシア、フィリピンの4か国を歴訪する。オバマ大統領は昨秋、国内で財政問題を巡る与野党の激しい対立によって政府機関閉鎖を余儀なくされた。その結果、予定していたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議、TPP(環太平洋戦略的経済連協定)首脳会合、米・ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議、東アジアサミットへの参加、マレーシア・フィリピン訪問をすべて中止せざるを得なくなった。

   それらの会合で、オバマ政権の「アジア軸足」外交やTPPの推進をもくろんでいたが、米国の都合で果たせなかった。今回のアジア歴訪は、昨2013年の中止の穴埋めである。しかも、訪韓は、日韓関係の悪化を逆手にとってオバマ大統領の訪日に割って入るような形で実現した。

   このオバマ大統領のアジア歴訪の国をみると、米国が中国を意識して、バランスを取っているのが透けて見える。尖閣諸島の日本、スプラトリー諸島のフィリピンの両国は、中国ともめている。一方、韓国は反日路線で中国に接近し、マレーシアも中国系住民が多く、歴史的に中国と友好国だ。

   オバマ大統領は、「アジア軸足」外交というが、中国をいかにほどよく取り込み、ほどよく封じ込めるかというものだ。アジアにおける米国のプレゼンスは、長期的には低下せざるを得ないが、そのスピードはゆっくりと、しかも中国との距離感をほどほどに、という程度だ。

韓国が、沈没船事故で日本の協力拒む理由

   オバマ大統領は、尖閣諸島は日米安保条約の対象と明言したが、韓国では、韓国の中国接近をある程度、容認するだろう。米国は、日本を対中封じ込め、韓国を対中取り込みにそれぞれ利用するはずだ。

   この米国の二面戦略は、今回のオバマ大統領の訪韓では、反日・中国寄りの朴大統領の援護射撃になる。今回は一泊二日なので、核実験の兆候が見られる北朝鮮が中心議題であろうが、米韓間の合同演習やミサイル防衛など軍事面での協力を再確認するだろう。

   旅客船沈没事故でも、在韓米軍の協力を受けたが、日本の海上保安庁の協力は拒んでいる。これは、事故現場に日本の海上保安庁が来ると足手まといになるという話は本当だろうか。韓国の海洋警察庁は、日本の海上保安庁とたびたび海難事故の合同演習を行っている。

   在韓米軍はよくて、日本の海上保安庁は困るという理由は、国内感情というよりも、韓国の安全保障上の理由だろう。これは、韓国が、いまだに日韓軍事情報協定を結んでいないことと表裏一体だ。

   こうした国際情勢の駆け引きを見ると、TPPで日本が多少アメリカに譲歩したとしても、長い目で見ればたいしたことではないだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。