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東京の「故宮展」ポスターに台湾反発 直前の大トラブル、世紀の展覧会どうなる?

   東京・上野の東京国立博物館(東博)で2014年6月24日から開催される台湾・故宮博物院の展覧会「台北 國立故宮博物院-神品至宝-」展をめぐって台湾で騒動が持ち上がっている。展覧会を告知するポスターの一部に「國立」の二文字がないというのだ。このままでは展覧会の中止も辞さないという声も出ているという。

   アジアで初めて開かれる大がかりな「台北・故宮展」がなぜこんなことになったのか。この騒動、日本の大手マスコミはほとんど報じないが、なぜなのか。

馬総統夫人が開会式に出席する予定だった

東京国立博物館正門前の看板には、しっかり「國立」の表記がある(14年6月21日撮影)
東京国立博物館正門前の看板には、しっかり「國立」の表記がある(14年6月21日撮影)

   台北・故宮博物院はルーブル、エルミタージュなどと並ぶ世界有数の博物館の一つといわれ、国共内戦の折に、北京の故宮から運び出されたものを中心に約70万件の古美術類が収蔵されている。それらの中には中国歴代王朝で「神品」とされた、いわば王権・政権の正統性を裏付けるような宝物も多く、それゆえ今の台湾政府にとってもことのほか貴重なものばかりだ。そうした中から、今回の展覧会では門外不出だった「翠玉白菜」など186点が展示される予定だ。

   東博で開かれる23日のオープニングセレモニーには、台湾側の「名誉団長」になった馬英九総裁夫人も出席することになっていた。総統夫人が日本に来て大がかりな公的行事に出るのは、1972年の日台国交断絶以来初めてという。

   ところが「騒動」が持ち上がった。日本側が作った一部ポスターの中に、「國立」が入ってないものがあるというのだ。台湾側はこのことを問題視、総統府は20日、日本側に誠意ある対応が見られない場合は、展覧会自体を取りやめるとの声明を出した。

   空前のスケールの大展覧会の直前に大トラブル――。だが、日本の大手マスコミでは時事通信や共同通信が現地発の短い記事を送り、それを受けた日経新聞などが簡単に掲載している程度だ。

   今回の展覧会では、主催に東博、台北・故宮のほか、NHK、NHKプロモーション、読売、産経、フジテレビ、朝日、毎日、東京新聞が並ぶ。さらにTBS、テレビ朝日、日本テレビ、共同通信が特別協力として参加。在京の大手マスコミ各社がほぼ勢ぞろいという展覧会では異例の構成となっている。主催の新聞各社ではこのところ派手に「台北・故宮展」の紹介記事を掲載しており、自社がいわば今回のトラブルの当事者の立場だ。

   日本の大手マスコミは日台断絶以降、台湾とは疎遠だった。しかし1998年ごろから各社とも支局を置いて活動。日台間の経済関係が緊密になり、中国ウォッチの拠点として台湾の重要性も高まっている。「台北・故宮展」はそうした日台間の良好な関係を象徴する催しとなるはずだった。

2年前には「北京・故宮展」

   東博ではすでに2012年1月から2月にかけ、「北京・故宮展」を開催している。東博の140周年ならびに日中国交正常化40周年を記念して、北京・故宮の名品を集めた「北京故宮博物院200選」展だ。約25万人が訪れている。このときは同館、北京・故宮博物院、朝日新聞、NHK、NHKプロモーションが主催で、特別協力に毎日新聞社が入っていた。また、後援で外務省、中国大使館、さらに協賛社として三井物産などが参加していた。

   関係者によると、二つの故宮展が時期をずらし、別々に開催されるようになったのには長く複雑な経緯があるという。

   日本での故宮展は10年ほど前から、北京と台北の二つを合わせて初めて本来の故宮展になる、対立する東アジアの平和と文化交流のために東京国立博物館で合同展を目指そうということで、故・平山郁夫氏らが実現に向けて動いていた。しかし、話がまとまらず、結果的にはまず先に「北京」が開催され、遅れて「台北」となった。

   「北京」に参加できなった大手マスコミの中には、首脳が訪台して馬総統と会談、「日本での台北・故宮展」の言質を取り、大きく報道、「台北展」に仲間入りしたところもあった。

   しかし、日本と台湾は、外務省のHPによると、「非政府間の実務関係」にとどまる。「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部」とする「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」するというのが日本政府のスタンスだ。そのせいか、「北京展」では後援に入っていた日本外務省の名が今回は見当たらない。協賛社もゼロ。その一方で「北京」のときはなかった「議員団体」が特別後援に名を連ねるなど、近年の日本、中国、台湾の政治・経済的な関係などから、両展の枠組みには微妙な違いがある。

法律も作って展覧会に備えていた

   日本側は「台北・故宮展」のために2011年、「海外美術品等公開促進法」を成立させた。日本の美術館などが海外から借りた作品を、ほかの国が差し押さえることができないようにした法律だ。台湾側は、日本で台北・故宮の収蔵品を展示公開した場合、中国が所有権を主張し、台湾に戻らなくなる可能性があるのではないかと心配していたが、この法律の成立でそんな懸念が払拭された。

   今回の展覧会の正式名称は「台北 國立故宮博物院―神品至宝―」だが、共同電によると、日本は台湾を国と承認していないため「國立」の文言を使用するかどうか日本側関係者の間で議論となり、最終的に固有名詞として扱うことになったという。そのせいか、旧字の「國」が使われている。また、問題となったポスターは主催者として名を連ねるメディア各社が独自に作成。これとは別に東博が作成したポスターには「國立」の文言があり、東博は「責任はない」との立場を示したが、台湾側は、こうした説明は「受け入れられない」として対応を求めたという。

   ちなみに日本の美術関係者の間では、それぞれの故宮について「北京故宮」、「台北故宮」と呼ばれることが多い。2年前の北京・故宮展では、展覧会の名前自体に「国立」が入ってなかった。また2013年に日本で開かれたルーブル展や12年のエルミタージュ展でも展覧会名に「国立」はなかった。

   東博によると、いま双方で開催に向けて真剣に協議しているところだという。