J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

法人税減税の財源確保のあおりで NPO寄付税制見直しの動き

   1998年の特定非営利活動促進法(NPO法)制定以来、社会的に不可欠な存在と認知されてきたNPO法人の活動を資金面から「締め上げる」動きが出ている。しかも、安倍晋三首相肝いりの法人税減税の財源確保のあおりというから、関係者の反発は強い。NPOをめぐって何が起こっているのか。

   介護などの社会福祉や子育て、教育、街づくりといった市民活動の担い手としてNPOの存在が広く社会に定着したきっかけは阪神大震災(1995年)だった。1998年のNPO法を経て社会的存在感を高めてきた。2009年発足した民主党政権は「新しい公共」をうたってNPO重視を鮮明に。2012年に政権に復帰した自民党は、「新しい公共」は否定しつつも「共助社会」を新たに掲げている。

2011年に税制の優遇措置を盛りこんだ改正NPO法が成立

   東日本大震災を受けて被災地支援が課題となったのを背景に、2011年には、NPO法人の認定条件の緩和と、資金不足解消を目的に税制の優遇措置を盛りこんだ改正NPO法が成立、2012年に施行された。これは、自民党も含め全会一致だった。税制上の優遇措置は、認定NPO法人が収益事業の利益を非収益事業に使った場合の「みなし寄付金」や、法人が寄付金を損金算入できる特例だ。

   併せて、個人が寄付する際の税制優遇も図られた。これはNPO法人だけが対象ではないが、寄付への依存が大きいNPOには重要課題。「寄付額マイナス2000円」を課税所得から控除する(差し引く)「所得控除」は以前からあったが、より効果がある「税額控除」が導入された。具体的には、例えば所得税率20%の人が10万円寄付した場合、所得控除だと9万8000円の20%の1万9600円の所得税が安くなるが、新たに導入された税額控除では所得税のうち、9万8000円の4割の3万9200円が戻ってくる。

寄付金税制は財務省にとって「何とかなくしたい制度」

   地方税は所得控除で9500円、税額控除だと9800円負担が軽くなる。基本的に税額控除が有利になるので、この制度が導入されてから、1認定法人あたりの寄付金額は倍増したという。

   ところが、この制度見直し論が政府・与党から持ち上がっている。与党税制調査会は2013年末の税制改正大綱で寄付に伴う税額控除の見直しの考えを盛り込み、また、法人税の減税論の流れで、2014年4月には政府税制調査会がみなし寄付金など特別措置の廃止・縮小を打ち出したのだ。

   寄付金税制は財務省にとって、「何とかなくしたい制度」(霞が関関係者)。効果が大きいということは、それだけ税収のマイナスが大きいということで、「大震災の勢いで認めさせられた」(財務省筋)との思いが強いという。

   みなし寄付金は、法人税減税の財源探しの中、中小企業などに影響が大きい諸々の租税特別措置見直しの一環で浮上したもので、減税規模の大小を問わず、可能な限り見直して財源をかき集めようということ。ただ、認定NPO法人の特例による減税額は約18億円。1000億円単位で財源が必要な法人税減税に比べ、微々たる額だが、NPOにとっては貴重な資金だ。

安倍内閣は「骨太の方針」に「寄付の促進」を盛り込んでいる

   安倍内閣は「地方創生」を掲げて、特に過疎化が進む地方の活性化を目指している。NPOが福祉を中心に行政の手の行き届かない分野で創意と工夫を発揮して活躍し、行政の穴をカバーしている面が少なくなく、財政赤字拡大の中で、NPOの役割が増すのも確実視されている。寄付についても、財政が厳しい中で必要性の高まりが指摘され、安倍内閣自身、6月の「骨太の方針」に「寄付の促進」を盛り込んでいる。それだけに、「NPOへの優遇措置を見直したり、税額控除に手を付けたりするような方向は、安倍内閣の方針とも矛盾する」(NPO関係者)。

   新聞各紙の社説も「時計の針を戻すな」(朝日新聞7月6日)、「とばっちりは御免だ」(東京新聞7月9日)、「共助社会には欠かせない」(神戸新聞7月22日)と、政府・与党の動きに批判的な論調が目立つ。法人税減税のあおりで、NPOの財政基盤を支える仕組みが揺らぐようなら、不満が広がりそうだ。