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AV出演の元日経記者が書いた寄稿が話題に 「論旨不明」なのか「読ませる文体」なのか

   アダルトビデオ出演歴がある元日経新聞記者の30代前半の女性が、週刊文春で報じられた自分のことをニュースサイトで解説した。記者時代の文章とは違って、特異な文体になっているため、「面白い」という声がある一方で、何が言いたいのかよく分からないという声も多い。

   この女性は、文春の2014年10月9日号によると、父親は名の知れた大学教授で、本人は慶応大学環境情報学部を卒業後に東大大学院に進んだ。その間に、横浜でスカウトされ、面白そうだと考えてAVの世界に飛び込んだ。

社会学の論文調とも思えるような文体を駆使

ツイッターでも寄稿を報告
ツイッターでも寄稿を報告

   04年にデビューし、主演で12作、共演を含めれば70作以上に出演し、2年間で2000万円ぐらいを稼いだという。

   日経には09年に入社し、都庁クラブを担当するなどした。データベースで調べると、医療記事などを普通の新聞記事の文章で書いている。在職中の13年6月、会社の許可を得て、修士論文に加筆した「『AV女優』の社会学」(青土社刊)を「鈴木涼美」のペンネームで出版した。これは朝日新聞の書評で取り上げられるほどの反響を呼んだという。日経は14年9月末に退社したが、本人は、社内でAV出演がバレて辞めることになったとのうわさを否定し、「家庭の事情」で自分から辞めたと言っている。

   文春が10月1日に「人気AV女優は日経新聞記者だった!」とサイト上でまず報じると、夕刊紙なども取り上げるほどの騒ぎになった。

   これに対し、鈴木涼美さんは5日、「社会学者・文筆家」の肩書でニュースサイト「リテラ」に長文を寄せた。タイトルには、「『週刊文春』の『日経記者はAV女優』記事に書いていないもうひとつの問題」とあり、社会学の論文調とも思えるような文体を駆使して持論を展開している。

   まず、自分の爪にも使っている「ジェルネイル」が人の爪と人工の爪の境をなくしたという独自の例えをもとに、デリヘルなど風俗の現状がプロと素人の境をあいまいにしていることを指摘した。ただ、「顔面とおっぱい丸出しの画像を全国に配信され、カメラの前で性行為をするAV女優は現在でも、非・AV女優とは一線を画したスキャンダラスな香りのする存在であるようだ」という。

「寄稿に書いた以外の取材はお断りしています」

   文春が報じたとき、鈴木涼美さんも、「その日から軽くパニック状態で走り回ったり引きこもったりしていた」そうだ。友人たちも、「『新聞記者がAV女優』ということが週刊誌の見出しになること自体が悪趣味で職業差別的で前近代的」だと怒ってくれた。しかし、鈴木さんは、「『新聞社』と『AV女優』の混ぜたら危険な感じ」を週刊誌などが焦点を当てるのはしごく当然であって、両方を取るという「自分の選択が招いたあまりに予想可能なリスクと言えなくもない」と告白している。

   見出しの問題はそのようなものだとしても、鈴木さんは、「今回の文春報道には、それ以上の論点がある」と述べた。問題はむしろ、「『AV女優』の社会学」について、「著者である鈴木涼美は、『AV業界をうろうろしながら』と自らのAV出演の経験を留保して、本書を記していること」だというのだ。経験は本を書くうえで圧倒的に有利であり、それを告白しないことは研究者倫理などから疑問がありうるとして、こう自問自答した。

「著者は、『偏見を鑑みて』などという言い訳の裏で、どこかで自分の著作を読む偉いオジサンたちを『巨乳で馬鹿っぽいAV女優が書いたって知ったらどんな顔するの?』と嘲笑するような気持ちは持っていなかったと言えるだろうか」

   この寄稿については、ネット上で反響を呼び、ツイッターなどに様々な意見が書き込まれている。

   賛辞としては、「この人、なかなか面白いねぇ」「頭の良さが伝わってくる文章だな」といった声が出たが、「何が言いたいのか分からなかった...」「よく記者がつとまったなあ、という印象」との厳しい指摘も多かった。著名人の間でも、意見が割れており、元NHKアナの堀潤さんは、「読ませる文体」とツイッターで評価したが、経済学者の池田信夫さんは、「妙に回りくどくて論旨不明」とツイートしている。

   サイト上に鈴木さんの連載を載せている幻冬舎を通じて、鈴木さんに取材しようとしたが、「基本的なことはリテラに書いてあり、それ以外はお断りしています」とのことだった。第1編集局の担当者によると、鈴木さんは今後、タレントを目指しているわけではなく、社会学をより研究しようと、東大大学院の博士課程を受ける準備をしているという。