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食料自給率「聖域」ではない! 財務省の「引き下げ提言」が波紋

   財務省は2014年10月末に開かれた財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で、カロリーベースで50%とする食料自給率の政府目標を引き下げるよう求めた。

   現在の農政は補助金など財政負担に依存しているが、自給率が大幅に上昇したことはなく、目標達成に向けた過大な予算の計上を見直すことで歳出抑制につなげたい考えだ。

1965年度の73%から半分近くに長期低落

「50%」はやはり厳しい...(画像はイメージ)
「50%」はやはり厳しい...(画像はイメージ)

   国内で消費される食料のうち国産でどの程度賄えているかを示す指標が自給率で、カロリーベースと生産額ベースがある。このうちカロリーベースについて、政府は2020年度に50%にするという目標を掲げているが、2013年度まで4年連続で39%に終わり、目標に遠く及ばないのが実情だ。しかし、農林水産省はこれまで目標達成に向け、予算を拡大させるよう求めてきた。

   それに対し、財務省は審議会で「自給率は食習慣の変化など消費者の好みに応じて左右される」として、「財政負担に依存した国内生産への助成措置のみで自給率を引き上げるのは困難」と強調。1965年度の73%から半分近くに長期低落しているが、その理由の一つとして、自給率の高い米の消費が減り、逆に輸入の多い肉や乳製品、油類などの消費が増加した点を指摘した。

   そのうえで自給率を引き上げるための試算を紹介。例えば、自給率を1%引き上げるには国産小麦を年40万トン増産すればいいのだが、農家への直接支払交付金も膨れ上がり、国民負担は年間420億~790億円増えると説明。また、輸入小麦(パン、中華麺用)の消費をすべて国産米に置き換えれば自給率は約7%上昇するとも指摘した。

   こうした試算を例示することで「自給率を引き上げるために過大計上された予算に効果はない」(関係者)と印象付け、歳出抑制に持ち込みたいというわけだ。

カロリーベースの自給率は日本独自のもの

   このニュースに対し、ネット上では「農業はどこの国も保護しているし、どこの国でも最も生産性が低い」「日本の農家の補助金は世界的にみて高くない」「食料安全保障はどうなる」「金額でなくやり方の問題。今みたいなバラマキは長続きしない」「自給率の前に農家の高齢化が問題」などと多様な意見が噴出した。なかでも目立ったのは「カロリーベースで自給率の目標設定することが、そもそもおかしい」という趣旨のコメントだった。

   政府目標に使われているカロリーベースの自給率は日本独自のもので、外国で採用している国はほとんどない。日本も生産額ベースだと2013年度は65%あるのだが、低いカロリーベースの自給率を持ち出されると国民の不安感は増す。それだけに「農水省が予算獲得のために使っている」などといった批判が根強い。

   これらの批判を踏まえ、財務省もカロリーベースの自給率に固執するのでなく、「潜在的な供給能力に着目した『食料自給力』の視点を取り入れていくことが有用」と言及。その食料自給力を高めるために農業の担い手の維持、育成などを重視すべきだと指摘する。要は金の使い方を見直して、もっと効率的に使うべきとの主張だ。

   指摘を受けた西川公也農水相も、日本の厳しい財政事情のなか、2020年度に50%にするという目標の達成は「相当難しい」との考えを示している。来年3月末までに新たな目標を決めることになっており、この流れのままなら現行の50%目標が見直される公算は大きいだろう。