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もう「ぼっち」は怖くない! 一人学食、一人鍋、一人カラオケ、「ぼっち席」ブーム到来か

   大学の学生食堂は「大テーブルに相席」が基本だ。しかし、近頃はその常識が崩れつつあるらしい。京大、神戸大などのほか、大東文化大学東松山キャンパス(埼玉県東松山市)の学食でも、テーブルの上に仕切りを設け、向かいに座る人の顔が見えないようにしている。

   こうした「ぼっち席」は今やキャンパス内だけに限らないようだ。最近では一般の飲食店やカラオケなどでも目に付く。かつては肩身が狭かった「ぼっち」が社会的に認知され、市民権を得つつあるということなのか。

しゃぶしゃぶやカラオケも一人で

女性の一人客が多い「一人しゃぶしゃぶ」(15年1月14日撮影)
女性の一人客が多い「一人しゃぶしゃぶ」(15年1月14日撮影)

   産経新聞によると、大東文化大では、全375席のうち72席がこういった「ぼっち席」で、連日盛況だという。東京工業大学(東京都目黒区)でも学食の数席に仕切りを設け、試験運用中という。

   「ぼっち席」と言えば、2012年に京都大学(京都市左京区)が、13年に神戸大学(神戸市灘区)が学食の中に仕切りのある席を設置し、話題を集めた。大東文化大も12年から始めている。

   「ぼっち席」は何も学食だけではない。華やかなブランドショップが立ち並ぶ東京・銀座通り、ここに「ぼっち」でも使えるしゃぶしゃぶ店があると聞いて2015年1月16日午後、足を運んだ。

   一般的に単価も高く、大勢で鍋をつつきながら食べるというイメージの強いしゃぶしゃぶ。しかし、この店ではランチタイムだと1200円という手ごろな価格から食べられる。仕切りは置かれていないものの座席は1つずつ区切られ、それぞれに専用鍋がついている。内装は高級感あふれ、重厚な雰囲気を漂わせている。とても「ぼっち」が手短に昼食を済ませるような店ではないと感じたが、店内はサラリーマン風の男性を含む多くの一人客でにぎわっていた。とりわけ女性の一人客が多く目についた。

   ランチには牛肉、豚肉、野菜、豆腐など鍋の具材が一通り付いてくる。目の前の鍋と向き合い、皆思い思いのペースで食べている。鍋はみんなで食べるもの、という先入観がつかの間、崩される。

   「ぼっち席」は飲食店以外にも広がっている。飯田橋駅(東京都千代田区)にほど近い雑居ビルの8階に24時間営業の「一人カラオケ」専門店がある。「恥ずかしい」「広い部屋に案内されると寂しい」と抵抗を感じる人の多い一人カラオケもここ数年、じわじわ市民権を獲得し始めた。この店では来店客にそれぞれ完全個室が用意される。個室の中には声や音楽の質を調整できるミキサー、レコーディング用マイクも用意され、さながらプロになった気分。入室すると同時に扉が完全ロックされるため、防犯対策もバッチリだ。

   誰の目も気にせず好きな曲を好きなだけ歌えるのはやはり気持ちいい。記者も2時間ぶっ続けで歌い通した。

   店員に話を聞いてみると、仕事帰りや出社前にフラっと訪れる人も多く、飯田橋という立地のせいか「むしろサラリーマン風のお客様の方が多い」のだとか。その他、寝泊りやギターの練習に使う人など、カラオケ以外での利用も広がっているという。

一人で食べていると「友達がいないんだな」と思われる

「完全個室」で誰の目も気にせず歌える(15年1月14日撮影)
「完全個室」で誰の目も気にせず歌える(15年1月14日撮影)

   インターネット調査会社「マイボイスコム」による14年12月の調査では、飲食店やレジャー施設を一人で利用する事について「抵抗感がある人」と答えた人は全体の16%を占め、「場所などによっては抵抗感がある」と回答した人を含めると全体の66%に上る。まだまだ「ぼっちは寂しい」と考える人が多数派のようだ。カラオケに関してはおよそ4割が一人での利用に抵抗を感じているという。

   「ぼっち席ってどう思う?」――記者に質問された都内在住の20代大学生は「私は平気」と前置きながらもこう語った。

「一人で食べるのがイヤというわけではなく、一人で食べているところを誰かに見られるのがイヤなんです。周りから『友達がいないんだな』と思われてしまう」

   他者からの視線と、自意識の間で苦悶する現代人――。すでに「おひとりさま」はプラスイメージでも語られるようになっているが、学食だけでなく一般社会でも広がる「ぼっち席」は、これまでの「ぼっち」への、ネガティブな見方を変えていくことになるのだろうか。