J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

日本では湯川さんの殺人を単に「殺害」 英字メディアでは「頭部切断」と残虐さに踏み込むところも

   イスラム国に拘束されていた湯川遥菜さん(42)が殺害されたとみられる写真が公開されたことを受け、世界各国の首脳が続々と非難声明を発表している。日本政府は、殺害を「言語道断の許しがたい暴挙」と表現しているのに対して、欧米首脳は「残酷な殺害」「蛮行」と、さらに表現が強い。

   この背景には、日本では湯川さんの「処刑」を単に「殺害」と表現するケースが大半なのに対して、英字メディアでは「頭部切断(beheading)」などと殺害の残虐さに踏み込んだ表現をしていることがあるとみられる。

日本政府の表現は「言語道断の許しがたい暴挙」

ユーチューブで公開された後藤健二さんの写真。湯川遥菜さんの写真が印刷されたパネルを持っている(画像を一部修整しています)
ユーチューブで公開された後藤健二さんの写真。湯川遥菜さんの写真が印刷されたパネルを持っている(画像を一部修整しています)

   拘束されている後藤健二さん(47)が、湯川さんが写った写真を持つ動画の存在が明らかになったのは、2015年1月24日の23時頃だ。菅義偉官房長官が直後の1月25日未明に開いた会見では、動画のことを、

「邦人1名が殺害された写真を持つ後藤健二氏の写真が、インターネット上で配信された。このような行為は、言語道断の許しがたい暴挙」

と表現した。直後に発表された安倍首相の談話でも、「殺害」は「言語道断の許しがたい暴挙」だという点は同じだ。

「湯川遥菜さんが殺害されたと見られる写真が、インターネット上に配信されました。御家族の御心痛は、察するに余りあり、言葉もありません。このようなテロ行為は言語道断の許しがたい暴挙であり、強い憤りを覚えます」

右の写真にはひざまづくような恰好、左の写真には頭部

   国内の大半のメディアでも、単に「殺害」と表現されている。ユーチューブで公開されていた動画では、後藤さんが持っているパネルのようなものには2枚の写真が印刷されており、向かって右側の写真には湯川さんがひざまずくような恰好が映し出されている。左側の写真には、頭部が置かれているという凄惨なものだ。

   ここ数か月、イスラム国は外国人を殺害する動画を複数公開している。この様子も単に「殺害」と報じられることがほとんど。米国人のピーター・カシグ氏の殺害について、朝日新聞が14年11月17日に、

「『イスラム国』がカシグ氏とみられる切断された頭部の映像を公表したことを受け、米政府が身元の確認を進めていた」

と報じたのが数少ない例外だとみられる。単なる「殺害」という言葉からは、「頭部切断」という犯行の残忍さは伝わりにくい。

   英字でも「殺害」にあたる「killing」「murder」といった単語を使って報じるメディアが多かったが、さらに踏み込んだ表現をするメディアも散見された。例えば米国のワシントンポスト、英国のガーディアン、オーストラリアのスカイニュースは、湯川さんの遺体の状況を「首が斬り落とされた」を意味する「beheaded」と表現。似たような意味の「decapitated」という単語や、「処刑された(executed)」という表現を使う社もあった。

オバマ大統領「残酷な殺害を強く非難」

   こういった事情が反映されたのか、欧米首脳の声明の方が強い言葉でイスラム国を非難しているようだ。オバマ大統領は1月24日に、

「米国は、テロリストグループ、ISIL(イスラム国)による日本国民、湯川遥菜さんの残酷な殺害を強く非難する」

とする声明を発表。ヘーゲル国防長官も、「非人間性」という言葉でイスラム国の残虐さを強調した。

「ISILの非人間性は、日本がここ数か月でイラクとシリアの人々に行ってきた寛大な人道援助とは著しく対照的で、イスラム国の相次ぐ蛮行は、世界的な連合がイスラム国を弱体化させ、究極的には破壊しようという決意を強めるだけだ」

   英国のキャメロン首相も、

「報じられているISILによる湯川氏の残酷な殺害とさらなる脅迫は、テロリストのさらなる残忍な蛮行を想起させる」

と述べ、イスラム国の一連の犯行を非難。フランスのオランド大統領も、「野蛮な殺害を強く非難する」と述べている。