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「はしご」はずされた北陸新幹線? 富山県・市「東京出張は飛行機で」のワケ

   北陸新幹線開業を熱望したはずの地元自治体が、首都圏への出張には飛行機を使うように職員に呼びかけるという珍現象が起こっている。

   新幹線開業に対抗して航空運賃が値下がりし、「飛行機の方が安い」というのがその理由だが、出張以外でも飛行機利用を勧めるケースもある。経済面とは別の理由もあるようだ。

  • 北陸新幹線は東京-富山間を最短2時間8分で結んでいる
    北陸新幹線は東京-富山間を最短2時間8分で結んでいる
  • 北陸新幹線は東京-富山間を最短2時間8分で結んでいる
  • 新幹線開業以降、東京-富山線は主にボーイング737型機で運航されている

富山駅~東京駅で通算すると飛行機が450円安い

   北陸新幹線の開業で、東京-金沢の最短所要時間は3時間51分から2時間28分に、東京-富山は3時間14分が2時間8分に、それぞれ1時間以上短縮された。首都圏への出張でも大幅に便利になるはずだったが、開業2日前の2015年3月12日、富山県庁は職員に対して、東京出張の際にはできるだけ飛行機の「特割」を利用するように求める通達を出した。富山空港と羽田空港の間は全日空(ANA)が1日に6便往復しており、新幹線開業後も引き続き飛行機の利用を求めた形だ。開業の祝賀ムードに水を差すようにも見える動きだが、人事課では「経済的な理由」だと説明している。

   飛行機の場合、搭乗日前日まで購入できる割引運賃の「特割」の場合、便によって多少のばらつきはあるが、最も安い場合で片道1万1290円。

   これに対して新幹線は、指定席で片道1万2730円(通常期)。富山駅から富山空港までのバス代410円、羽田空港から東京駅までの電車代(京急、JR山手線)580円を合わせても、富山駅~東京駅で通算すると、飛行機の方が450円ほど安くなる計算だ。富山市も、職員に対して「これまでの方針を徹底する」という趣旨で、同様の通知を出している。

   ANAは14年11月と12月に相次いで羽田-富山間の「特割」を値下げすることを発表している。その結果として飛行機が新幹線に「競り勝った」とも言える。

富山駅から富山空港までは20分、羽田空港から東京駅まで35分かかる

   ただ、450円の差のために飛行機を選ぶのは非合理だという声も出そうだ。例えば所要時間で比べると、富山空港から羽田空港までは1時間で飛ぶが、富山駅から富山空港までは20分程度かかる。加えて、羽田空港から東京駅まで35分程度。乗り継ぎや待ち時間を含めると、どんなに短くても2時間半は必要で、新幹線の2時間8分と比べると長旅になるのは確実だ。加えて、飛行機は6往復なのに対して、新幹線は東京~富山を25往復している。いかにも飛行機は利便性の面で見劣りする。

   富山県や富山市は

「運賃によっては飛行機の方が高くなる場合もあり、そういったときに飛行機でなくてもいい」
「飛行機の方が欠航の可能性が高そうであれば新幹線でも構わない」

などと話しており、必ずしも新幹線の利用を禁止しているわけではないが、職員にとっては煩雑さがつきまとうことになりそうだ。

ANA社長「観光需要が新幹線でブームになっており、全体需要が膨らんでいる」

   富山市では、出張とは別に、プライベートや職員の親睦旅行でも飛行機利用を呼びかける通知を出した。航空路線の維持、という観点だ。新幹線の開業後、富山-羽田便で主に使用される飛行機は中型機のボーイング767型機から小型機の737型機へと一回り小さくなった。利用者数が減ることを見越した対応だ。便数こそ1日6便が維持されたものの、今後は分からない、という危機感だ。

   例えば、過去には東北新幹線や上越新幹線の開業で羽田-仙台便や羽田-新潟便が廃止になったという経緯がある。最近の例では、2011年3月の九州新幹線全線開通までは1日5往復していた日本エアコミューター(JAC)の福岡-鹿児島線が、全通直後に3往復に減便され、今は36人乗りのプロペラ機、サーブ340B型機が2往復するのみだ。いずれの都市も、新幹線で2時間程度で結ばれている。

   ANAの篠辺修社長は北陸新幹線開業から1週間程度経った3月20日、北陸路線の状況について

「予約状況やお客様の動向を見ると、私どもの予想よりも、お客様には多く乗っていただいている。搭乗率も、当初の予定よりはいい状態。予約の状況も、まあまあいい」
「観光需要が新幹線でブームになっており、全体需要が膨らんでいる。我々の方が『新幹線に取られる』ことを前提に考えていたが、取られ方が限定的」

と話している。現時点では「ご祝儀相場」で乗客数は大きくは減少していないようだが、夏以降の動向に注目が集まりそうだ。