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埼玉県警考案の「チカン抑止シール」 張られたらおしまい、「冤罪生む」の声

   埼玉県警鉄道警察隊が無料配布している「チカン抑止シール」をめぐり、ネット上で議論が巻き起こっている。これが「冤罪を生むか否か」を巡ってだ。

   やっていないのに張られたらどうするのか、やろうと思えば嫌いな人物を社会的に抹殺できる、そんな声も聞こえてくる。一方の県警鉄道警察隊は「シールだけで犯人と認定するわけではない」と反論している。

  • 「シールだけで犯人と認定するわけではない」(写真は「チカン抑止シール」)
    「シールだけで犯人と認定するわけではない」(写真は「チカン抑止シール」)
  • 「シールだけで犯人と認定するわけではない」(写真は「チカン抑止シール」)
  • シールとともに配布されるパンフレット
  • パンフレット裏面にシールの使い方が記されている
  • 埼玉県警鉄道警察隊が県内の中学校などで配る啓発資料。左が女子生徒用、右が男子生徒用

「娘を心配する父親」も配布申込み

   シールは埼玉県内各駅の県警鉄道警察隊派出所で、申込者にのみ2015年1月16日から配布されている。痴漢に遭っても声を出せない女性に、犯人が行為をエスカレートさせる。そんな事例を見るにつけ、「何かできないか」という思いで開発された。

   大きさは直径約1.5センチ。2枚重ねで、表面には「さわらないで!」と記されている。痴漢された、と感じたときはまず携帯電話(スマートフォン)や小物にシールを貼り、「さわらないで!」の面を見せて意思表示をする。それでも行為が止まらない場合、「さわらないで!」の面をはがし、下面に付いた赤い「×」印を犯人の手に押しつける。押しつけた際手に転写される赤いインクは油性で落ちにくい。犯人の手には証拠が残るという仕組みだ。

   埼玉県警鉄道警察隊によると、当初印刷した4000枚をまもなく配り終えるという。「反響も大きく、増刷を考えています」と明かした。ここ数週間はテレビ番組でも多く報道され、次々と配布申込みが寄せられた。女性本人だけでなく、娘や孫を心配する父親や祖父も派出所を訪れるのだという。

   ただ、シールを巡っては、以前からネット上で「冤罪を生み出すのでは」と危惧されていた。

   ツイッターでは、

「痴漢を立件ってより逆に痴漢でっちあげの道具にされるだけなんじゃ...」
「塗料が付いたら人生終了の恐ろしい社会」
「冤罪が増えるの方に一票」
「電車には痴漢とその被害者だけが乗っているわけじゃない」

といった厳しい指摘も見受けられる。

   さらに「2ちゃんねる」では「痴漢防止シールとか言う冤罪助長アイテム」など刺激的なタイトルのスレッドを確認できる。

   確かにここ最近、痴漢の「冤罪」事件が多発している。12年11月、埼京線内で女子高校生に痴漢をしたとして東京都迷惑防止条例違反の罪に問われた男性に、東京高裁は15年3月、無罪を言い渡した。

   14年3月、東武東上線内で痴漢行為をしたとして県迷惑行為防止条例違反の罪に問われた男性は15年2月、さいたま地裁に無罪を言い渡された。ほかにも起訴されたにもかかわらず「無罪」判決が出た例は少なくない。

さまざまな証拠を「慎重かつ適切に」見極める

   チカン抑止シールで本当に「悲劇」は起きないのか。「冤罪を助長するという声は寄せられていないか」といった記者の質問に、県警鉄道警察隊は「反響が大きく、多くのご意見を頂いていますが、おおむね応援したいといった肯定的なものが多いように思います。否定的な意見も一部ありましたが、いずれも痴漢は卑劣との認識を共有していたように思います」と答えた。

   そして、「シールだけで、『×』がついたからといって、犯人と認定されるわけではありません」と強調し、「物的証拠や目撃者、防犯ビデオ映像など、さまざまな証拠を慎重かつ適切に見極めます」と語った。

   シールを受け取る人にも、十分な説明、指導を行っているという。事実、シール付属のパンフレットでも「×印がチカン行為の補強証拠になる可能性はありますが、×印があることのみを証拠として、犯人を検挙するのは困難ですのでご注意ください」としている。