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地銀経営改革、金融庁が本腰 規制緩和と再編・統合、さらに推進へ

   人口減少や低金利の長期化で地銀経営が厳しさを増す中、金融庁が地銀の経営改革へ「口出し」する姿勢を強めている。

   業務規制の緩和と再編・統合の推進という両にらみで政策誘導を進める構えだ。

  • 地銀再編はどうあるべきか、単純には言えない
    地銀再編はどうあるべきか、単純には言えない
  • 地銀再編はどうあるべきか、単純には言えない

金融庁新体制のテーマに

   地銀経営の見通しの厳しさは数字にも表れている。上場84行の2015年3月期決算では、確かに、足元の業績は輸出大企業を中心にした企業収益の好調などを反映して概して好調だ。連結純利益(一部単体)は84行計で前期比7%近く増の約1兆1000億円と、前期に続く高水準になり、約7割の銀行が増益を確保した。

   しかし、地域別でみると円安で業績好調な自動車産業などを抱える中国・九州の地銀が好調な半面、製造業が少ない北海道の貸出残高が減り、東北も勢いを欠くなど、バラツキがある。

   今後の見通しとなると楽観を許さない。金融庁が7月3日発表した2014年7月から1年間の金融検査・監督の年間報告書「金融モニタリングレポート」によると、金融緩和や競争激化で、地銀の中核業務である貸し出しについて、貸出金利回り(全106行の平均)は、2011年3月期の1.88%から2015年3月期は1.44%に低下し、この傾向が続けば、8割超にあたる89行で2018年3月期の経常利益が2014年3月期より減り、うち22行は半分以下に落ち込むと試算している。

   地銀の経営改善策として、金融庁が考えるのは、一貫して「規模の利益」だ。確かに同リポートには「独自のビジネスモデルで差別化を図る戦略もある」との記述はあるが、これは、いわば「おまけ」。再編などによって「規模の利益を指向する経営戦略」が金融庁の掲げる本命の政策。その根拠として同リポートは、貸し出し規模が大きくなるほど効率化が進む傾向が強いことを指摘している。

   時あたかも、金融庁は、エースとされる森信親・新長官(1980年旧大蔵省入省)が就任、遠藤俊英監督局長(1982年入省)、三井秀範検査局長(1983年)が順当に昇進した。この新体制のテーマの一つが地銀の経営改革だ。遠藤局長は検査局長時代、人口減少で収益が厳しくなる地銀下位行の頭取と面談を繰り返し、時に厳しく経営の見通しを問い質す場面もあったと、その世界では恐れられる存在。金融機関の単なる合従連衡ではなく、統合後にどのようなビジネスモデルを描くか、厳しく迫るとみられる。

「銀行持ち株会社」がポイント

   新体制のスタンスを予感させるのが、金融持ち株会社の傘下にぶら下げられる事業会社の範囲を広げる規制緩和だ。持ち株会社の経営・リスク管理を厳しくすることを条件に、銀行グループが銀行業に関連した分野に進出できるようにするというのが柱で、電子商取引(ネット商店街)やスマートフォンを使った決済サービスなどに参入しやすくする。経営効率化も狙いのひとつで、持ち株会社傘下に旧行それぞれ別々になっている国債などの資金運用を専門子会社に集約できるようにするといったイメージで、経営統合の効果を高めると期待される。

   ここで、ポイントとなるのが「銀行持ち株会社」ということだ。

   5月19日に金融庁で、まさに規制緩和を論じる有識者による「金融グループをめぐる制度のあり方に関するワーキンググループ」の初会合が開かれた際、出席したある地銀幹部が「検討範囲について質問したい」と手を挙げ、議論の対象が持ち株会社に限定されるのか、金融庁側に確認する場面があった。規制緩和を持ち株会社採用銀行に限ることは、銀行単体で事業している多くの地銀に大きな影響を及ぼすとの懸念が広がっているのだ。

   業務範囲を広げるということは、新規業務のリスクが銀行本来の業務に及ぶ恐れがあるということで、リスクを波及させないためにはどういう経営形態がいいか、という問題だ。金融庁は、持ち株会社の傘下に銀行と新規業務を営む子会社が並列でぶら下がる方が、銀行本体にそのまま子会社をぶら下げるよりも、リスクを遮断できると判断しているということだ。

サービス低下の恐れも

   金融庁の考えが、持ち株会社ではない地銀への再編圧力を強めることにあるのは間違いない。一国一城の主である地銀の統合は難しいが、持ち株会社なら、旧行は残るため、まだ統合への抵抗は少ないからだ。

   同時に、統合済みの銀行グループの効率アップと融合促進という思惑もある。北陸銀行と北海道銀行が経営統合した「ほくほくファイナンシャルグループ(FG)」が2003年に発足したのを手始めに、地銀界の金融グループは約10に達し、今年10月には肥後銀行と鹿児島銀行が統合して九州FGも誕生する。

   ただ、統合しても、旧行の間の主導権争いから、経営効率をなかなか高められないグループも多いとされ、「銀行以外の稼げる子会社を増やし、持ち株会社の力を強め、傘下の個々の銀行へのグリップを効きやすくする」(全国紙経済部デスク)ことで、融合を進める狙いがあるというわけだ。

   もっとも、規模追求は銀行自体の経営効率は高めるにしても、融資先中小企業などユーザーにとっては、「店舗の統廃合により不便になったり、きめ細かく対応してもらえなくなるなどのサービス低下の恐れもある」(中小企業団体関係者)。

   不良債権処理の嵐が吹き荒れた2000年代初頭は、中小企業の切り捨てが横行した。地域経済の底上げに真に貢献する地銀再編はどうあるべきか、金融庁の路線しかないと、単純には言えないのかもしれない。