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日本郵政、11月上場後の暗雲 「あの選挙」から10年たって収益力は?

   日本郵政が2015年11月4日、傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険とともに東京証券取引所へ上場する。NTTなどに次ぐ元国有企業の大型上場とあって市場関係者の注目を集めているが、日本郵政グループの収益力には課題が多いのも事実だ。上場後の株価や配当で投資家の高い期待に応えていくためには、郵便・物流事業の赤字脱却はもちろん、ゆうちょ・かんぽの金融2社の資産運用力向上が急務となる。

   「民営化は10年間唱え続けられて、一度も実現していない。実現は我々グループのミッションだ」。日本郵政の西室泰三社長は今年4月の記者会見で、小泉純一郎首相時代に郵政民営化を争点に掲げた2005年の「郵政選挙」から10年を経て、日本郵政グループ3社の同時上場が実現することの意義を強調した。

  • 上場で、日本郵政の成長はどんな道筋を辿るのか
    上場で、日本郵政の成長はどんな道筋を辿るのか
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貯金限度額1000万円超狙うが運用力に問題

   確かに、株式上場は完全民営化に向けた大きな一歩なのは疑いない。

   しかし、現段階で日本郵政グループの成長戦略が描き切れているというには程遠い。東京証券取引所が9月10日に3社の東証1部上場を承認したことを受け、日本郵政が公表した2016年3月期の連結業績見通しによると、経常利益は前期比22.9%減の8600億円、最終利益は23.3%減の3700億円といずれも二ケタ減益を見込む。超低金利を背景に、グループの収益の柱であるゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の資産運用益が減少するためだ。

   ゆうちょ銀行、かんぽ生命はこれまで、集めた貯金や保険料の多くを国債の安定運用に振り向けてきた。足元では、より高い利回りが見込める株式や外債などリスク資産への投資を増やしているが、金利低下に伴う運用益減少の方が大きく、まだ収益に貢献できる状況になっていない。ゆうちょ銀の副社長にゴールドマン・サックス証券で副会長を務めた佐護勝紀氏を迎え入れるなど、運用体制を強化しているが、対策は緒に就いたばかりだ。

   こうした状況の中、日本郵政グループの企業価値向上に向け、自民党はゆうちょ銀の貯金預入限度額(現行1000万円)とかんぽ生命の契約限度額(同1300万円)を引き上げる提言をまとめた。これを受け、有識者でつくる政府の郵政民営化委員会が限度額引き上げを含めた民営化推進のあり方を議論している。だが、地方銀行などを中心とした民間金融機関は「民業圧迫だ」と引き上げに激しく反発しており、実現への道筋は不透明だ。金融業界では「資産規模ばかりが大きくなっても、運用体制が追いつかなければ収益向上にはつながらない」と冷ややかな見方が多い。

株売却益で大震災の復興資金を見込む国

   他方、日本郵政の中核事業である郵便・物流事業は赤字が続く。日本郵政が100%出資を継続する日本郵便は今年、オーストラリア物流大手のトール・ホールディングスの買収に踏み切った。需要拡大が見込めるアジアに強い物流企業の大型買収により、国際物流企業への脱皮を図る狙いがあるが、海外事業の運営ノウハウや人材をほとんど持たない日本郵政が、どこまで国際展開で成果を挙げられるのか、疑問もくすぶっている。

   10年間進まなかった日本郵政の上場がトントン拍子で進んだのは、政府が株式の売却益を東日本大震災の復興に充てる必要が生じたという側面もある。ただ、中国経済の減速感の強まりなどを背景に、株式市場も不安定な状況が続いており、日本郵政の船出は厳しいものになりそうだ。