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「がん放置療法」の近藤理論 「医師の皆さん、どう思いますか」

   「がんは放置がいちばん」「抗がん剤は毒だ」「がん検診は死者を増やすだけ」――。センセーショナルな言説で医療界のがん治療を批判する近藤誠・元慶応義塾大学医学部専任講師の著作『がん放置療法のすすめ』などが次々とベストセラーになり、話題になっている。その「近藤理論」をどう思うか、医師と患者側双方のアンケート調査がまとまった。2015年10月26日、医師の会員制サイト「m3.com」のニュースサイト「医療維新」が、経済ニュースのサイト「News Picks」との共同企画で発表した。

   それによると、医師側は「99害あって1利なし」などと大半が否定的だが、それでも3割は「聞くべき点もある」と答え、一方、患者側は6割近くが「賛成」「聞くべき点もある」と肯定的であることがわかった。

  • がんの手術は患者に大きな負担もかかる
    がんの手術は患者に大きな負担もかかる
  • がんの手術は患者に大きな負担もかかる

大半は「99害あって1利なし」も3割「聞くべき点ある」

   近藤氏が提唱している「がん放置療法」を簡単にまとめるとこうだ。がんには本物の「がん」とニセモノの「がんもどき」と2種類あり、本物は発見時には転移しており治療しても無駄。ニセモノは転移しないので、放っておいてもよい。いずれも積極的な治療は必要なく、抗がん剤や手術などは患者を苦しめるだけというもの。

   「医療維新」らのアンケートに答えたのは、医師側(m3.comの会員)476人、患者側(News Picksの会員)326人。「近藤理論」について、医師側では「賛成」(3%)、「知らない」(12%)、「聞くべき点もある」(32%)、「反対」(53%)だった。一方、患者側では「賛成」(6%)、「知らない」(21%)、「聞くべき点もある」(52%)、「反対」(21%)と、両者の見方が大きく開いた。

   自由に意見を書く個別回答では、医師側から厳しい批判が多く出た。

   「こういう人をマスコミが取り上げるから日本の医療は崩壊する」「マスコミではなく学会でも発表してほしい」「エビデンス(医学的根拠)が不明」「まったくの机上の理論。宗教家だと思う」「近藤先生ががんになって証明してみてください」などと、特に医学的根拠に疑問が出された。

   同時に「がん治療は必要だ」として、「近藤理論の悪影響」を指摘する意見が相次いだ。「最後はまともな医師が近藤さんの患者のフォローをすることになる」「積極的な治療で恩恵を受けている患者はたくさんいる」「補助化学療法は一定の効果があるし、切除不能でも治癒が望める場合がある」などだ。患者側でも「がんは怖いので放置できない」「無駄な治療かどうかは本人が決めること。医師が『無駄だ』と提唱するのはおかしい」という意見も。

患者は「疑似医学か医学か、臨床実験で決着つけて」

   しかし、医師の側でも肯定的な意見があったのも確かだ。

「治療しないのも選択肢の1つ。そういう考えを広めたのは素晴らしい。対象患者を受け入れる態勢づくりが必要だ」「確かに見つけた以上、何かをしなければという現状は異常。患者の期待値が高すぎるのが問題。人間、いつか死にます」「助けられる場合は積極的に治療すべきだが、若干の延命のみであれば選択の余地があっていい」

   患者側でも「進行性のがんは、緩和治療をのぞき治療はとめる」「高齢者の寿命を半年伸ばすのに、抗がん剤を何百万円も使うのは馬鹿げている。抵抗力を弱め、死期を早めるだけだ」という意見が多かった。

   患者側で目立ったのは、「一般人は疑似医学と医学の区別がつけられない」「何が真実か判断できないから、臨床試験を実施して(近藤理論を)検証してほしい」という、医学界で「論争」の決着をつけてほしいという意見だ。