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国内向け「内航海運」が危機 船の老朽化と船員の高齢化が深刻

   船で国内の港から港へ荷物を運ぶ内航海運が危機に瀕している。内航海運は国内の貨物輸送の4割を占めているが、貨物船の老朽化と船員の高齢化が進み、海運業界で深刻な問題となっている。

   トラックや鉄道に比べると、私たちの目に触れる機会は少ないが、海に囲まれた島国・日本で、貨物船はガソリンなど石油製品や鉄鋼、セメントなどの輸送で重要な役割を担っている。海運業界の現実を知ることは、物流に支えられた私たちの生活を考えることでもある。

  • 島国・日本では、貨物船による輸送が重要な役割を担っている
    島国・日本では、貨物船による輸送が重要な役割を担っている
  • 島国・日本では、貨物船による輸送が重要な役割を担っている

2000年代以降、新造船は進んでいない

   国土交通省や日本内航海運組合総連合会によると、国内の貨物輸送量(貨物の重量に輸送距離をかけたトンキロベース)はトラックが50.8%で最も多く、内航海運(貨物船)43.9%、鉄道5.0%、航空0.3%と続く。貨物船は長距離・大量輸送に適した輸送機関で、ガソリンなど石油製品や鉄鋼、セメント、化学薬品、自動車など「産業基礎物資」と呼ばれる貨物の輸送は8割が貨物船という。

   現在、国内では約5200隻の貨物船が活躍しているが、トラックや鉄道などライバルとのコスト競争から貨物船の代替建造(新造船)が進んでいない。貨物船は船齢14年が法定耐用年数で、これを超えると老朽船となるが、実際に14年超の老朽船が71%を占め、「安全性や輸送効率の低下が危惧される」という。老朽船の割合は、1990年50%、2000年45%が、2003年に51%と過半を超えて以降、急激に老朽化が進んだ。とりわけ2000年代以降、新造船は進んでいない。

内航貨物船の船員は50歳以上が全体の56%

   国内で貨物船を運航する内航海運事業者の登録は、1970年の1万304社から2015年は2036社と激減した。このうち中小事業者の占める割合は94%で、約4割の事業者は1隻だけで運航する個人経営など零細企業という。

   貨物船だけでなく、船員の高齢化も大きな課題となっている。内航貨物船の船員は50歳以上が全体の56%を占め、60歳以上も25.2%に達して、世代別で最も多く、20代は12.2%、30代は12.5%にすぎない。海運業界は「若手船員の確保、育成が喫緊の課題となっている」と悲鳴を上げている。

   2014年度、国内で内航貨物船は83隻建造された。しかし、コスト負担が重いため、決断に踏み切れない中小事業者が多い。海運事業者が新造船を行う場合、特別償却や中小企業投資促進税制などの優遇措置があるが、2016年度末に期限切れとなるため、日本内航海運組合総連合会は政府・自民党に継続を求めている。

専門教育機関を卒業していない若者の内航船員への就業支援を促進

   後継者となる若い船員の確保には明るい兆しもある。内航船員の有効求人倍率は1.87(2014年)と高い。これまで船員になるには商船系大学や商船系高等専門学校のほか、海上技術短期大学校(高卒対象)、海上技術学校(中卒対象)など専門教育機関を卒業するのが定番だった。そこで政府は船員養成の専門教育機関を卒業していない若者の内航船員への就業支援を進めている。新人船員に必要となる資格の取得費用を助成したり、船員を計画的に雇用する海運事業者に助成金を支給するなどしているが、政府は2016年度予算で関連予算を増やし、船員の確保・育成体制を強化する方針だ。

   果たして老朽化した貨物船の代替と、後継者となる若手船員の確保は進むのか。物流は私たちの生活に不可欠なだけに、海運関係者でなくとも気になるところだ。