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トヨタはなぜ「5大陸走破」を目指すのか 「もっといいクルマづくり」にかける想いとの関係

   トヨタ自動車は、「TOYOTA GAZOO Racing(トヨタ・ガズーレーシング 以下TGR)」というプロジェクトを通じて、世界中で催される様々なモータースポーツに参加している。2014年からは、従業員自らがランドクルーザーなど、トヨタの様々な車種を運転して5大陸の過酷な道を走破する「TOYOTA 5大陸走破」プロジェクトにも取り組んでいる。

   トヨタはなぜ、モータースポーツへの挑戦を続けるのか。その背景には、トップに立つ豊田章男社長の強い想いがあった。トヨタ実験企画統括室の杉田憲彦さんと、モータースポーツマーケティング部の柳澤俊介さんに、2016年の最新事情を聞いた。

  • 5大陸走破を技術面で支える杉田憲彦さん(右)とTGRブランディング担当の柳澤俊介さん(左)
    5大陸走破を技術面で支える杉田憲彦さん(右)とTGRブランディング担当の柳澤俊介さん(左)
  • 5大陸走破を技術面で支える杉田憲彦さん(右)とTGRブランディング担当の柳澤俊介さん(左)
  • 5大陸走破のコンセプトを記したポスターは、トヨタの全部署に飾られているという
  • 「道を知らない者が、いいクルマを作れるだろうか」この一言に章男社長の想いがあらわれている

「モータースポーツ活動=人づくり」

――TGRの目的は。また、2015年の活動成果はどうようなものでしたか。

柳澤「トヨタでは『モータースポーツ活動=人づくり』として、人材育成のためにTGRに取り組んでいます。さらに、レースを通じて育った人材がクルマを作り、そのクルマに乗った人がトヨタのファンになる。この三つが大きな目標です。TGRの組織自体ができたのは昨年の4月で、今ちょうど1周年を迎えます。15年も様々なモータースポーツに参加したので個々の成果については一概に言えないのですが、全体としては、まだまだこれから頑張らなければならない、というところです」

――「5大陸走破」は、どういったチャレンジですか。

柳澤「『道が人を鍛える、人がクルマを作る』をスローガンに、社員が実際に世界各地の道を走ることで鍛えられ、いいクルマづくりにつながる経験を積むことを目的としたチャレンジです。社内の様々な部署から人が参加しています。14年のオーストラリアに始まり、15年は北米を走破しました。今年は南米にチャレンジします」
杉田「オーストラリア、北米とこれまでは先進国が中心でしたが、南米はどちらかといえば新興国が多い大陸です。環境や道の状態も厳しいところがあります。そして今までと一番異なる点は、住んでいる人の価値観が違ってくるということだと思います」

――モータースポーツの成果は、クルマ作りにどのように活かされていますか。

   柳澤「モータースポーツへの参加は、良い成績を収めることよりも、関わった人がいかに育って帰ってくるか、ということに重きを置いています。実際のクルマづくりとしては、レースから学んだエッセンスを盛り込んで開発した市販車シリーズ「G's」を展開したり、FIA世界耐久選手権(各社がハイブリット車で参加する選手権)では、ハイブリット技術を他社と切磋琢磨したりしています」

トヨタが考える『もっといいクルマづくり』とは

――豊田章男社長は、なぜモータースポーツに力を入れているのでしょう。

柳澤「すべては『人づくり』のためだと思います。やはりテストコースの走行だけではいいクルマは作れないですし、開発に携わる人は実際の道を知らないといけない。そうした実践の極致にあるのがモータースポーツです。限られた時間、過酷な環境下で実践経験を積むことで、いいクルマを作るためのセンサーが研ぎ澄まされた人間が育ちます。そういった意味で、特に力を入れているのではないかと」

――社長が、そしてトヨタが考える「もっといいクルマづくり」とは何ですか。

杉田「我々が章男社長にこの質問をすると、怒られるかもしれません。きっと、この質問に答えはないと思いますが、強いて言うならば『もっといいクルマづくりとは何か?』を考え続けることでしょうか。たとえば、モータースポーツの場ではクルマの性能が第一ですが、一般の方にとってはそれだけが大切なのではありません。販売店の対応や、アフターサービス、会社そのものの評判などすべて含めて『その人のクルマ』だと思います。お客様にトヨタのクルマを『愛車』と呼んでもらうために、自分は何ができるのか。我々は常に新しい考えを取り入れながら、探り続ける必要があると考えます」

――最近、「若者のクルマ離れ」とよく言われます。そんな中、TGRを通じて、若い世代に向けてクルマの楽しさを、どうPRしていきますか。

柳澤「若者のクルマ離れが進んでいると言いますが、実際はクルマを敬遠する人が増えたというよりは、『クルマがあまり身近にないから興味がない』という人が多い印象です。たとえば、採用活動なんかで若い人にモータースポーツや5大陸走破の話をすると、興味を持ってくれる人はたくさんいます。多くの若者が『クルマと触れ合う機会そのものが少ないから楽しさを知らない』のであって、決してクルマを嫌いな人が増えたわけではないのです。豊田社長はよく、『若者が(クルマから)離れたんじゃない。我々が(若者から)離れたんだ』と言います。だからこそ我々は、TGRの取り組みの中で様々な場所でモータースポーツの楽しさを伝えたり、クルマに触れ合う場づくりを行うことで、若者がクルマの楽しさを知り、クルマのファンになるきっかけを増やしていかなければな、と思います」

【プロフィール】

杉田憲彦 車体の強度・衝突・振動騒音性能開発を歴任し、業務改革企画を経て豪州走破から5大陸走破プロジェクトに携わる。プロジェクト活動を技術的な側面から支える。

柳澤俊介 入社以降国内営業部門でマーケティング企画を担当。現在はTGRのブランディング担当で、5大陸走破には14年の豪州から携わっている。豪州、北米で走破メンバーとして参加。