J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「高収入よりやりがい」に「そんな奴いねぇよ」 「ガイアの夜明け」公式アカ炎上のワケ

   良い給与に、安定した生活...そんなものは「後回し」という人が増えている――敏腕経営者や斬新なビジネスアイデアを様々な視点で紹介してきた経済番組「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)の公式ツイッターアカウントがこんな内容の番組紹介ツイートを投稿した。

   いつもと少し毛色が異なる、穏やかな特集。しかし、ネットユーザーらから「そんな奴いねぇよ」「良い給料に安定した生活欲しい人の方が多いに決まってる」と批判のツイッターが発信されると、このアカウントの炎上に発展してしまった。

  • 「やりがい搾取」と勘違いされてしまった(画像は番組アカウントの該当ツイート。編集部で一部加工)
    「やりがい搾取」と勘違いされてしまった(画像は番組アカウントの該当ツイート。編集部で一部加工)
  • 「やりがい搾取」と勘違いされてしまった(画像は番組アカウントの該当ツイート。編集部で一部加工)

外資系金融機関、大手商社を退職してでもやりたいこと

   番組公式アカウントは2016年3月22日、

「良い給与に、安定した生活...。そんなものは『後回し』という人が、増えてきているんだそうです。『社会の役に立ちたい』という思いで仕事を探す人たち。働くことを通じて、一体なにを掴もうとしているのでしょうか。今夜のガイアは、人生『やりがい』探しの旅。あなたも改めて、考えてみませんか?」

とツイートした。同日夜に放送される番組の単なる内容紹介だが、とりわけ冒頭部分が反発を招いたようで、

「そんな奴いねぇよ」
「良い給料に安定した生活欲しい人の方が多いに決まってる」
「やりがい探しなんて後回しにしろ」

といったリプライが集中。ちょっとした「炎上」状態となった。

   肝心の番組内容はどうだったのか。

   タイトル名は「『安定』を棄ててでも...」。社会問題の解決とビジネスの展開を同時に行う手法「ソーシャルビジネス」の特集だ。社会貢献の1つの形として、今注目されている。カメラが追ったのは、外資系大手金融機関や大手商社など高収入の安定した職業を退職し、新たに起業する若者たちだった。

「やりがい搾取」と勘違い?

   インドネシアでカカオ農家の生活向上に取り組む京都の有名チョコレート専門店、バングラデシュの貧困層の雇用を生み出すアパレルブランド、少しでも現地人の役に立ちたいと奮闘する経営者の姿が印象的だった。

   30代のチョコレート専門店店主は番組のインタビューで「給料は後からついてくるもの。農家自身がうれしい、誇りを持って働いている、そういうのを見るのがやりがい」と話した。

   いずれの事例もビジネスの興味深い新潮流に見えるが、なぜ批判が集中したのか。

   それはツイートを見て「やりがい搾取」を思い出す人が多かったからかも知れない。企業が「自己実現」や「やりがい」という言葉だけをぶら下げ、労働者に長時間労働させる仕組みを作り、労働内容に見合った正当な代価を支払わない状況、それが「やりがい搾取」だ。労働社会学ではすでに重要な議論のテーマで、ブラック企業や賃金適正化の文脈から批判されることが多い。

   今回番組が特集したのは「高収入の安定した職を捨てて社会のために起業した若者」であり、「やりがい搾取」の事例に当てはまらない。だが、いつもは新興企業も含めた成功した経営者の出演が多いためか、最初のツイートを含め、多くのネットユーザーには、「やりがい搾取」の推奨と誤解されてしまったようなのだ。

   実際、

「そうやって『やりがい搾取』するのが貧困の一因になってんじゃないの」
「この後に及んでまだやり甲斐搾取かよ」

といった指摘もツイッターで散見された。

   23日17時現在、公式アカウントはこれらの声に反応していない。

   所得格差やブラック企業的な雇用への疲弊感から、「やりがい」という言葉は、もはやサラリーマンの働くモチベーションにつながらない――。そんな時代を象徴する一断面だった。