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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
パナマ文書の「識者解説」には要注意 国内「タックスヘイブン」関係者の実態

   パナマの法律事務所のタックスヘイブンに関する内部文書(パナマ文書)が流出し、世界中を騒がしている。

   日本のマスコミは、これに対して、ちょっと腰が引けている。テレビでコメンテーターとして金融機関関係者などを使っているが、はたして適任だろうか。

  • タックスヘイブンに世界中の資産が流れ込んでいる(画像はイメージ)。
    タックスヘイブンに世界中の資産が流れ込んでいる(画像はイメージ)。
  • タックスヘイブンに世界中の資産が流れ込んでいる(画像はイメージ)。

脱税ではなく「節税」だが・・・

   タックスヘイブンとは、明確な定義はないが、課税が著しく軽減されたり、全くなかったりする国・地域である。具体的には、スイス、ケイマン諸島、香港、パナマなどだ。ルクセンブルク、アイルランドや米デラウェア州も含めることもある。

   タックスヘイブンに法人を設立して、その法人との取引を使って、所得・資産を移転させ、課税逃れ・資産隠しを行う。つまり、各種の名目でタックスヘイブン法人に手数料を払う方法などで所得・資産移転を行うわけだ。これらは、表向き合法の取引であり、タックスヘイブンという国・地域で課税されないという国家主権を逆手にとって、脱税ではなく節税をしている。ただし、やっかいなのは、非合法取引も紛れ込んでいることだ。

   世界の金融資産のうち8%が租税回避地にあり、その額は6.5兆ドル(720兆円)といわれ、関係国の所得税・相続税の逸失額は年間1500億ドル(17兆円)という試算もある。

   日本からも50兆円以上の資産が、タックスヘイブンに流れ込んでいる。多くの上場企業はタックスヘイブンに子会社を持っているし、海外投資信託ならタックスヘイブン籍だ。タックスヘイブンに子会社を設立したらどうかと、事業家なら誰でも言われるほどだ。

当分、いたちごっこが続く

   タックスヘイブンを勧めてくるのは、弁護士、会計事務所、金融機関などだ。彼らは、タックスヘイブン取引のビジネスで大きな収益を上げている。マスコミが識者として取り上げる人には、弁護士、会計士、エコノミストが多いが、彼らの多くはタックスヘイブン取引でビジネスをしている所とも密接な関係があるので、歯切れが悪い。

   あるテレビ番組で、タックスヘイブンについて、金融機関関係者が解説していたが、パナマ文書をすべて読んだと豪語しており、おかしかった。パナマ文書については、今回出された文書はごく一部である。本体の情報量は2.6テラバイトとあまりに膨大なために、80か国の400人のジャーナリストが分析中である。今のところ、それに参加している人しか読めないが、あまりに膨大な量のために一人で全部を読むのは不可能である。いずれにしても、タックスヘイブンのお先棒を担いだ関係者に解説させるのは問題である。

   タックスヘイブン取引では、弁護士、会計事務所、金融機関が必死になって税法の抜け穴を探して、それに基づき、脱税ではなく節税が行われているというのが建前であるが、こうした脱税と節税の境界線は国内にもある。所得が多くなれば、個人事業ではなく、会社を作って事業をした方が結果として納税額は少なくなる。これはマスコミに登場するかなりの識者が行っている合法的な節税行為である。そうした識者も、タックスヘイブンについては痛し痒しだろう。

   脱税と節税は紙一重である。ある税制の下では、節税でも、税制改正になれば脱税になる。各国ともに、タックスヘイブンを使った節税には頭を悩ましており、国際機関やG7等で提言し、各国ともに税制改正で対応しようとしているが、当分いたちごっこが続くだろう。その間、弁護士、会計事務所、金融機関は稼ぎ時である。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)、「戦後経済史は嘘ばかり」 (PHP新書) など。