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大韓航空事故の「ありえない対応」 多数の犠牲者が出ていた可能性

   羽田空港で離陸滑走中の大韓航空機から出火、搭乗していた全319人が緊急脱出したトラブルで、航空会社側の「お粗末な避難対応」を問題視する声が出ている。

   乗客が撮影した機内の映像をみると、エンジンから出火した後にも関わらず、機内には「もう1度離陸の許可を待っております」という的外れなアナウンスが流れた。また、緊急脱出用のシューター(滑り台)の位置に「大きな問題があった」として、「ありえない対応だ」と厳しく指摘する専門家もいる。

  • 出火した機体左側から脱出用の「シューター」が出ている(写真:AP/アフロ)
    出火した機体左側から脱出用の「シューター」が出ている(写真:AP/アフロ)
  • 出火した機体左側から脱出用の「シューター」が出ている(写真:AP/アフロ)

出火した側のシューターが降りていた

   大韓航空機のトラブルは16年5月27日12時30分頃、羽田発金浦空港(ソウル)行き大韓航空2708便(ボーイング777-300型機)で起きた。離陸のための滑走中に左エンジンから出火し、同機は滑走路上で停止。乗客乗員全319人がシューターで緊急脱出し、10人以上が足や肘を打撲するなど負傷した。

   今回のトラブルをめぐっては、乗客が避難する際の大韓航空側の「不手際」を指摘する声が出ている。元日本航空機長で航空評論家の小林宏之氏は5月30日のJ-CASTニュースの取材に対し、乗務員の対応にはいくつかの問題があったと話す。

   小林氏によれば、最も大きな問題は「出火した機体左側の非常ドアが開き、シューターが展開されていた」点にあるという。出火している側から乗客が避難した場合、脱出後もエンジンの爆発などの被害に巻き込まれる可能性が高くなる。そのため、世界各国の航空会社では、「火が出ていない側から脱出させること」がほぼ共通のルールとして設けられているという。

「今回の場合、幸いに火はすぐに消火されました。ですが、甚大な『二次災害』を招く危険性があったことは確か。最悪の場合、多数の犠牲者が出ていた可能性もあります。避難対応のマニュアル的には『ありえない対応』ですよ」

   小林氏は現場の混乱の中で乗客が勝手にドアを開けてしまった可能性もあると補足したが、事実として「出火側のシューターが展開されている」ことから、乗務員の指示や案内に「不備があったと言わざるを得ない」と重い口調で話した。

大韓航空の副機長「完璧な緊急脱出だった」

   トラブル機に搭乗していた乗客が撮影した映像によれば、左翼から白煙が出ている状況にも関わらず、機内には「ただいまもう1度離陸の許可を待っております」「しばらくお待ちください」と的外れなアナウンスが流れた。その際、乗客からは悲鳴に近い叫び声が上がっていた。

   このアナウンスについて、先述の小林氏は「機長と客室乗務員のコミュニケーションができていない証拠」と指摘。エンジントラブルの発生を機長は間違いなく確認できていたと述べ、「乗務員が勝手に放送を流したのでしょう」。「訓練不足ですよね」と呆れた様子で続けた。

   また、キャリーケースなどの手荷物を持って脱出した乗客が目立ったことについても、「指示を徹底できていない」と問題視。乗客の避難に時間がかかるほか、シューターで滑り降りる際のけがにも繋がるため、乗務員は荷物を置いて脱出するよう乗客に説明する責任があるとも説明した。

   一方、乗務員による避難誘導で「日本語での指示がなかった」との批判が出ていることに対しては、「避難誘導時の言語の規定はありません」として、大きな問題ではないとした。

   ただ、韓国の中央日報(日本語版)が5月30日に配信したウェブ記事によれば、大韓航空の現職副機長は、今回のトラブル対応について「(乗務員は)全員が学んだ通り完璧に緊急脱出を実施した」などとフェイスブック上で主張しているという。こうした投稿について、小林氏は「マニュアル通りの対応ができていたとは全く思えません」と驚いた様子で話していた。