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明日は「世界的な株安」? 英の「EU離脱・残留」投票にハラハラ

   2016年6月23日7時(日本時間、23日15時)、いよいよ英国で欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票がはじまった。

   投票は23日22時(同24日6時)が締め切り。すぐに開票がはじまり、24日早朝(同昼すぎ)には大勢が判明するとされる。その結果次第では、英ポンドの急落など為替相場が大混乱に見舞われる恐れや、企業はEUや英国との商取引の見直しを余儀なくされる可能性がある。世界中が投票の成り行きを、固唾を飲んで見守っている。

  • EU離脱か、残留か… 英国民はどちらを選ぶのか?
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初期段階では残留が優勢 その後、離脱派が巻き返す展開か?

   英国の国民投票の直前、現地の世論調査は離脱派、残留派が二分したままだ。ロイター通信などによると、6月22日、英調査会社のオピニウムは離脱を求める人が45%、残留は44%と公表。TNSは離脱が43%、残留が41%、コムレスは残留が48%、離脱が42%、ユーガブは残留51%、離脱49%だった。いずれも拮抗しており、どちらが「優勢」とは言いづらい状況にある。

   また、英フィナンシャル・タイムズは「当日の投票率が焦点」と、投票率が65%を上回れば残留派に有利になると分析した。

   第一生命経済研究所経済調査部の主任エコノミスト、藤代宏一氏は、「精査が終わった投票所から随時結果を公表しますが、はじめのほうに発表される予定の集計所は『残留優勢』の地区で、『離脱優勢』の地区の発表見込み時刻は遅めのため、初期段階では残留が優勢となり、その後、離脱派が巻き返す展開になりそうです」とみている。

   そんな英国の国民投票のゆくえに戦々恐々としているのが、英国に進出している日本企業だ。

   日本貿易振興機構(JETRO)によると、 英国には879社の日系企業が進出。日本から英国への直接投資残高は、2009年以降に急速に増加しており、2015年末時点では892億2770万ドル(財務省調べ)。投資先としては米国、中国、オランダに次ぐ第4位だった。

   JETROは、英国がEUを離脱した場合、短期的には為替変動や、英国の景気低迷や市場縮小などが起り、商品やサービス価格の上昇や消費の減退が予想されるという。

   さらに、中長期的にはEUからの人材確保が難しくなることや、通関・関税コストの上昇や、それに伴う原材料や部品などの調達コストの上昇、法制度や規制変更への対応など、影響が広範囲に及ぶことが考えられる。

   英国に進出する日系企業のうち、じつに470社が現地法人(本社)で、英国の拠点が広く欧州をカバーしている。たとえば、金融機関は英国で許認可を受ければEU域内で自由に営業できる「パスポート制」で欧州各国に展開しており、パスポート制が利用できなくなると、EUで別途認可を受ける必要が出てくる。また、自動車や鉄道などの製造業では、原材料や部品などに関税が発生する可能性があることから、欧州全域でのサプライチェーンの見直しが必要となる。さらに、英国貿易投資総省(UKTI)によると、158社の日本企業が英国に研究開発・デザインセンターを設置。EU基金の恩恵を少なからず受けていることから、研究開発体制の見直しも迫られる可能性があると指摘する。

英国の現地法人、65%が「EU離脱なら、マイナス影響」

   JETROは2016年6月14日、ロンドンで英国のEU離脱をテーマにした日系企業向けセミナーを実施。そこに参加した企業(54社)のうち、英国のEU離脱で「マイナスの影響を受ける」と回答した企業は64.8%にのぼった。なかには、ドイツやオランダ、アイルランドへの拠点の移転を検討している、という声もあったという。

   英国の現地法人が小型車の「AURIS」や中型車「AVENSIS」を生産し、その多くをEU向けに輸出しているトヨタ自動車は、「(英国がEU離脱となれば)影響がないわけではありませんが、現時点で具体的な備えはありません」と話す。為替についても、「動向を見たうえでの判断になります」という。

   とはいえ、日本経済新聞電子版(6月22日付)は、トヨタが英国の現地法人の従業員に宛てて、EU離脱の場合はビジネス上の大きなリスクがあるとする内容の手紙を送っていたことがわかった、と報じた。賛成・反対のどちらに投票するかは従業員の意思を尊重するとしているというが、企業として「離脱は避けたい」との思いがにじむ。おそらく、そう思っている企業は少なくないだろう。

   一方、為替相場の動向を注視しているメガバンクや証券会社などの金融機関は、市場の混乱に備えて、金融庁が英ポンドやユーロ、米ドルの調達状況を確認したこともあり、手元資金を積み増すなど、手当したようだ。

   仮に、英国のEU離脱で現地経済の先行き懸念が強まると、投資家らがポンド建ての預金を引き出したり、ドルや円などの他の通貨に換金したりする動きが加速しかねない。銀行間取引でもポンドやドルを融通するのに慎重になるため、手元の外貨が足りなくなる恐れがある。それにより、日系企業向けの融資にも影響が及ぶ可能性がないとはいえない。

   三菱東京UFJ銀行は「具体的なお話はできません」としたうえで、一般的な動きとしてはあってもおかしくないとしている。

   外国為替証拠金(FX)取引に投資する個人投資家を抱えるFX業者も、投票結果に備える。英国のEU離脱によるポンドの急落で、多額の損失を被る個人投資家が急増する事態を防ぐため、円とドルに対するポンドの取引額の上限を引き下げたり、ポンド関連の取引を一時中止したり、取引を制限する動きが広がっている。

   もし「EU離脱」となれば、円高は必至。一気に1ドル100円割れを起こす可能性があるばかりか、「英国株を中心に、世界的な株安が観測されそうだ」(第一生命経済研究所の藤代宏一氏)という。