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こんな投票できれば(4)【参院選2016】
世代ごとに代表を選ぶ「世代別選挙区」

   2016年夏の参院選(6月22日公示、7月10日投開票)に合わせて、J-CASTニュースが海外の例や専門家らの提案をもとにユニークな「選挙制度」を紹介する連載企画。最終回の第4回は「世代別選挙区」だ。

   現行制度における選挙区は、地理的観点からだけで区分けがなされている。「年齢別選挙区」は、これに世代ごとの区分けという観点を加えるもの。各区の代表が特定世代の声を代弁することにより、世代間格差の是正が期待される。

  • 若者の声は「青年区」選出議員が代弁(画像はイメージ)
    若者の声は「青年区」選出議員が代弁(画像はイメージ)
  • 若者の声は「青年区」選出議員が代弁(画像はイメージ)

投票権18歳引き下げで増えた有権者は2%だけ

   少子高齢化が進む現在の日本では、社会保障について世代間格差が広まるばかりだ。高齢者に給付されている年金や医療保険の多くは「国債」(国の借金)で賄われており、負担は将来世代に先送りされている。

   抜本的な改革が必要だが、そう簡単にはいかない。有権者の年齢分布は中高年に偏っており、政策も中高年に有利なものが掲げられがちだ。若年世代の意向はどうしても軽視されてしまう。

   ただ、若年世代は投票率も低い。2014年に行われた第47回衆院選でも20代の投票率は32.58%、30代は42.09%で、他年代と比べて低い水準にとどまった。もし投票率を上げることができれば、有権者数が中高年層に比べて少ないとはいえ、ある程度は世代の声を反映できるだろう。しかし、例年の啓発活動をもってしても大きな変化がみられないのが現実だ。

   今回の参院選では、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことにより、新たに約240万人の若い有権者が加わった。若年世代の政治的な声が反映されやすくなることが狙いだが、約240万人という数が有権者全体に占める比率は、わずか2%にすぎない。

   では、選挙権年齢の引き下げではなく、選挙区の区分け方法を変えたらどうか――。東京大学大学院経済学研究科の井堀利宏教授は「年齢階層別・世代別選挙区制度」の導入を主張している。

議員は世代別の利益代表者

   まず、有権者を世代別にグループ分けする。たとえば18歳~30代を「青年グループ」、40~50代を「中年グループ」、60代以上を「老人グループ」とする。それぞれの「グループ」の有権者数に応じて定数を比例配分する。各グループが「老人区」「中年区」「青年区」といった選挙区になり、その世代の人たちが投票して代表を決める。立候補する側は年齢に関係なく、自らが政策を訴えたいと思う「区」に立候補する。

   現在、日本の有権者数は約1億660万人。人口推計と照らし合わせると、青年グループに該当する有権者の割合はこのうち3割弱。中年グループは3割強、老人グループは4割と見込まれる。

   「老人区」に与えられる定数はおのずと多くなるが、若年世代の棄権率が相変わらず高かったとしても、「青年区」からは人口に応じた一定数の代表が必ず選出される。そのため、将来世代の意向がこれまでより強く反映されやすくなるだろう。

「議員も世代別の利益代表という色彩が強くなりますから、世代間での利害調整が政治の場で透明性を持った形で行われやすくなります」

   井堀氏は公益社団法人「日本経済研究センター」会長との対談記事(2015年)の中で、こう指摘している。

   地理的な区分けを取っ払ってしまうわけではなく、たとえば、世代グループの議席数を、全国の小選挙区に割り振るという考えだ。グループごとに議席の定数が異なるため、各世代の小選挙区の地理的な境界は少しずつズレることになるが、「青年区の第〇区」といった通知で案内すれば特に混乱は生じない、と井堀氏はみている。

「平均余命」に応じた定数配分という意見も

   世代別の定数配分については、有権者の年齢に応じた正比例に加えて、もうひとつの考え方がある。一橋大学大学院経済学研究科の竹内幹准教授は、日経ビジネスのコラム「気鋭の論点」(2011年6月)の中で「平均余命」に応じた配分をすべきだとしている。

   ある年代の平均余命は、基本的には若いほど長いので、若年世代の選挙区の定数が必ず増えることになり、新たな「1票の格差」の問題が懸念されるが、竹内氏は

「移行期を除けば、生まれた年にかかわらず、どの人も生涯を通じて同じだけの投票力を持つので、生涯を通じた『投票価値の平等』は担保される」

と指摘。

   「今後、50年、60年に渡って日本の将来を担う世代の声が議会に強く反映されるべき」とし、世代別選挙区と平均余命による議席配分の導入を訴えている。