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日本の女性政治家なぜ「ダサい」? メイ英新首相のようにオシャレになれないワケ

   英国の新首相、テリーザ・メイ氏(59)をめぐっては、その政治手腕だけでなくファッションにも注目が集まっている。有名ブランドのアイテムを上手に着こなし、ヒョウ柄のパンプスに真っ赤なネイルがトレードマークだ。

   そんな「英国オシャレ番長」からの刺激を受け、インターネット上では日本の女性政治家のファッションの「ダサさ」が話題になっている。

  • 鮮やかなブルーのコートもさらっと着こなすメイ首相(写真:ロイター/アフロ)
    鮮やかなブルーのコートもさらっと着こなすメイ首相(写真:ロイター/アフロ)
  • 鮮やかなブルーのコートもさらっと着こなすメイ首相(写真:ロイター/アフロ)
  • 蓮舫氏(左)は白、福島瑞穂氏(右)はピンクのスーツが定番だ

定番は派手な原色スーツに大きな肩パッド

   「政治家なのにとんがったセンスですてき」「知性的な大人の女性の颯爽さ!」「国会で着ていたワイン色のカシュクールも素敵」――。いずれも日本のツイッター上に投稿されたメイ氏評だ。

   政治家としてのキャリアを長年積み重ねてきたメイ氏は、一方で「政界のファッションリーダー」としても知られる。ヒョウ柄のパンプスやブルーのコートなど、派手なアイテムを取り入れながらも気品を感じさせるコーディネートは、上級者こそなせるワザ。手元の赤いネイルも目を引く。

   そんな彼女が2016年7月13日に英新首相に就任したとあり、日本人は驚きを隠せないようだ。というのもツイッター上では、メイ氏に言及すると同時に、こんな指摘が相次いでいるのだ。

「日本の女性政治家は肩パッド入りカラフルなスーツ、カーラーで巻いたっぽい髪、こってりマットなメイクで一体何十年前に置き去りなの?って人が多い」
「日本の女性政治家って総じて『なんでこんなセンスないのさ...』って愕然とする時ある」

   確かに、日本の女性議員を思い浮かべてみると「ファッショナブル」というイメージとは程遠く、どこか「時代遅れ」なイメージがつきもの。

   その特徴の1つが「派手な原色スーツ」だろう。たとえば、民進党の蓮舫代表代行(48)は白、自民党の松島みどり元法相(59)や丸川珠代環境相(45)は赤、社民党の福島瑞穂副党首(60)はピンクのスーツを着ていることが多い。東京都知事選(7月31日投開票)に出馬した自民党の小池百合子氏(63)は「うぐいす色」だ。数人集まれば、さながら「戦隊モノ」である。そこにもう1つの特徴である、やたらと分厚い「肩パッド」がプラスされることもある。

日本の女性議員にとってスーツは「戦闘服」

   いずれも世の女性たちが憧れるようなファッションでは到底なく、かといって、親しみやすさもさほど感じられない。一昔前ならまだしも、日本の女性政治家たちはなぜ派手なスーツを着続けているのか――。

「日本の女性議員にとってのスーツは、周囲に自分の存在感を植え付け、キャラをアピールするための『戦闘服』の役割を果たしてきているからです」

   こう話すのはファッションプロデューサーで服飾専門家のしぎはらひろ子氏だ。

「1986年に日本憲政史上初の女性党首として就任された故土井たか子さんは、当時から華やかなスーツ姿でした。以降、女性議員が一気に増えたものの、全体としてはまだ少なかった。そこで彼女たちは国会中継でどこにいるかわかるように意図的に華やかな色をまとい、女性ならではの存在感を示そうとしました」

   確かに国会中継を見ていても、女性議員たちの鮮やかなスーツはやたらと目を引く。では、肩パッドが目立つのはなぜなのか。

「土井さんの時代は肩パッドの大きいデザインが主流だったということもありますが、それだけでなく、一本筋の通った強い志をアピールするものでもあります。なで肩だと頼りなく見えますからね」

   しぎはら氏によれば、こうした流れは、先輩議員の勧めや議員仲間との情報共有により現在まで脈々と受け継がれ、「色がきれいで、縫製がきちっとしたスーツ」が議員の「制服」として定着したのだという。ただ、今ではこうしたスーツを取り扱う店がほとんどないため、その多くが銀座の同じ店で購入しているそうだ。

議員然としたファッションが「礼儀」

   とはいえ、土井さんの党首就任から30年――。そろそろメイ氏のようなファッショナブルな女性政治家が日本で増えてもよさそうなものだが...。

   世界に目を広げてみると、ファッションが評価されているのは何もメイ氏に限らない。たとえば、シーンに応じて雰囲気を変える米国のヒラリー・クリントン前国務長官の洗練された着こなしや、イタリア初の女性ローマ市長となったビルジニア・ロッジ氏のTシャツ&デニム姿には好意的な声が送られている。

   なぜ、こうも違うのだろうか。しぎはら氏に質問すると、「これはまさに文化の違いなのです。欧米と日本ではファッションへの向き合い方が根本的に異なり、それが女性政治家のファッションにも関係している」と指摘する。

「欧米では『ファッション=スタイル(在り方)』という概念が衣服の歴史と共に育まれてきました。同時に、場所と目的に応じて服を変えることがマナー教育として浸透しています。ですから『ファッションは内面をみせる自己表現』として認識されてきました」
「一方、日本は『衣に魂を込める』という文化を持ちます。花鳥風月を衣に映し、美しく身にまとうことで所作を整え、『身にまとう服=今日会う相手への礼節』という文化を育んできました。そして日本人には『和をもって尊しとなす』という考えが根底にあります。ですから衣服においても『特別目立つことは場を乱す』と捉えるのです」

   つまり日本の場合、女性政治家においては「誰が見ても議員らしい服を着てきました」ということが相手への礼儀になるのだという。

好き好んで派手なスーツを着ているわけではない

   さらに、しぎはら氏はこうも続ける。

「たとえば、都知事選に出馬した小池百合子氏がローマの市長の同じように『私は(前都知事の)舛添さんのように無駄遣いはしないわ!』と、いきなりコストパフォーマンス重視のスーツで出てきたら、皆さんはどのような反応をしたでしょうか?ものすごい賛否両論になるでしょう。日本人は『それってどうなの?』と言いつつ、どこかで『いかにも』な服装ではないと安心しないという思いを無意識に、内に秘めているのです」

   もっとも女性政治家たちも好き好んで派手なスーツを着ているわけではないようだ。「選挙に出るには周りの言うことも聞かないといけないし、まずは目立って知ってもらわないといけない、という部分があります」(しぎはら氏)。そして現実的な話として、政治家然としている服装の方が「選挙に勝ちやすい」のだという。

   着たくて着ているわけではない政治家と、「ダサい」と言いつつも議員然としてないと安心しきれない国民――。女性政治家たちの「特徴的なファッション」は、実に「日本的」な考え方に根付いたものであるようだ。

   最後にしぎはら氏は、日本の女性政治家たちのあるべきファッションについてこう話した。

「今や時代は変わり、女性議員の存在そのものが珍しい時代ではありません。大切なことは『掲げる公約と見た目の一致』。庶民派をうたう女性議員が高級ないかついスーツを着ていれば、言動とかみ合わずに逆効果になりますよね。自分を表現する見た目を賢く選び取る知性さえも、問われる時代なのです」