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日銀追加緩和は有害なのか、現実的なのか 各紙「社説」の評価がバラバラ

   日銀は2016年7月29日に開いた金融政策決定会合で、上場投資信託(ETF)の買い入れ額を現在の年3.3兆円から6兆円に倍増する追加金融緩和を決めた。

   黒田東彦総裁は同日の記者会見で、政府が8月2日に決定する経済対策と追加緩和が両輪となって「相乗的な効果を発揮する」と強調した。

  • 日銀追加緩和に対する各紙の評価は?
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毎日「ゆがみ目立つ」、朝日「今や有害」

   ただ、市場には、政府の財政を日銀が事実上、丸ごと面倒をみる「ヘリコプターマネー」といった超大胆な政策に踏み切るとの予想まであっただけに、マイナス金利と国債購入ペースも現状通りでETF買い増しだけとした今回の決定はいかにも小幅緩和と受け止められた。大規模な経済対策を打ち出す政府との協力を演出しつつ、マイナス金利などの緩和策の副作用に配慮する必要があったというのが大方の見方だ。また、9月の時期決定会合に向け、より大規模な追加緩和を行うための布石との見方と、緩和姿勢は後退するとの見方が交錯。金融市場では円相場が一時、1ドル=101円台に円高が進み、その後も102~103円台の水準で推移している。

   この日銀の決定を新聞はどう論じたのか。7月30日朝刊で各紙一斉に掲載した社説(産経は「主張」)を読んでみると――。

   「毎日」は「大規模な緩和を3年以上続けてもデフレ脱却の道筋は見えない。さらに小出しの緩和を加えても効果は乏しいのではないか。異次元緩和の限界をうかがわせるような決定だ」と指摘したうえで、「むしろ異次元緩和のゆがみが目立つ。......異次元緩和の軌道修正こそ急ぐべきだ」と、政策転換を要求。朝日も「企業や家計にとって、行きすぎた金融緩和は今や有害だ。マイナス金利政策では、金融機関だけでなく運用計画が狂った年金基金も悲鳴をあげている。日銀は正常な金融政策に立ち戻るため、早く異次元緩和からの出口政策を検討し始めるべきだ」と、早期の出口戦略の必要を説いた。

日経「現実的な判断といえる」

   「産経」は、「日銀が、経済対策を講じる政府との協調を強める必要はあろう」と一般論では言いつつ、今回の決定には「政府や市場の緩和圧力に応じざるを得なかったためだとみるほかない」と批判的でもあるが、「『バズーカ』と評されるような本格的な政策を9月の次回会合以降に温存したい思惑もあったのだろう」と書き、むしろ秋以降の大規模な追加緩和に期待する姿勢といえそうだ。

   これに対して「日経」は、「効果と副作用を踏まえ、緩和策をどこまで進められるのか、丹念に検証すべきだ」と、大規模緩和のマイナス面を指摘しつつも、「東証株価と連動するETFの買い入れ増は市場安定に一定の効果があろう」「マイナス金利の拡大を強行すれば、金融機関の収益悪化の懸念で株価下落を招きかねない。緩和策は現実的な判断といえる」と、基本的に今回の決定への支持を鮮明にしている。

   「読売」は全体に「緩い」書きぶりで、英国民投票後の金融市場の混乱が「ひとまず沈静化している」と、現時点の緩和の必要に疑問を示しつつ、政府との協調や市場の期待の高まりといった状況を踏まえ、「日銀として『ゼロ回答』は避けた方が良いと判断したのだろう」と、日銀の胸の内を推察。市場への「サプライズ」で政策を動かしてきた黒田総裁に対し「今後は......より丁寧に市場と対話を重ねていくことが求められよう」と注文するにとどめている。

「日銀の独立性」では各紙が懸念

   今回、麻生太郎財務相らが追加緩和への期待を公言していたこともあって、日銀の「独立性」という点も1つの注目点だった。これについて「朝日」は「政権の意を受けて追従したと見られても仕方あるまい」と断じ、「毎日」も、今後のも含め「政府の圧力でさらなる緩和を余儀なくされると見られかねない」と批判。「産経」も「主張」とは別の一般の解説記事で「日銀内では『独立性が脅かされつつある』(幹部)との不満もくすぶる。今後は政府との距離感をどう保ち、協調していくかが問われることになる」とくぎを刺しているほど。「読売」は「閣僚からも緩和を求める声が相次いでいた」と、わざわざ指摘して独立性への懸念をにじませた。

   さらに、「朝日」は今回のETF購入増反対が9人の審議委員のうち2人だけだったことに話を進め、「委員の任期が来るたびに、政権がアベノミクス賛成論者に替えてきたからだ。......今後ますます政権にとって都合のよい金融政策に傾きかねない点も気がかりだ」と、委員構成にも踏み込んで懸念を表明している。

   後世、批判にさらされない中央銀行の歴史を重ねられるか、1980年代にバブルを生んだ「戦犯」とされたような汚名を再び歴史に刻むのか。今回の「追加緩和」は、中身は小さいものだったが、日銀が歴史的な岐路にさしかかっていることを暗示しているのかもしれない。