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早期の前立腺がん「手術不要説」 「積極的監視」が治療の選択肢に

   中高年の男性なら人間ドックなどで、前立腺がんの腫瘍マーカーを調べる血液検査(PSA)を勧められた人も多いだろう。検査の普及などで前立腺がんの患者数は増え続け、国立がん研究センターの2015年の推計では年間9万8000人が新たに前立腺がんと診断され、部位別のトップになったとみられている。

   前立腺がんと診断され、手術か放射線治療かなど治療法の選択に悩んでいる患者は多い。しかし、英国で行われた長期にわたる調査で、早期の前立腺がんなら、どの治療法をとっても10年後の死亡率に差がないことが確かめられた。調査した研究者は、英国の公共放送BBCに「これは男性を非常に安心させる結果。患者に過剰な治療が行われていることが世界的な問題だ」と話している。

  • 手術するかどうかを悩む患者は多い
    手術するかどうかを悩む患者は多い
  • 手術するかどうかを悩む患者は多い

10年後も治療法によって死亡率は変わらず

   この研究は世界的に著名な米国の医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン最近号に発表された。英オックスフォード大の研究グループがPSA検査で異常が見つかり、組織の精密検査で早期の前立腺がんと診断された50歳から69歳までの英国人男性1643人を詳しく調べた。患者を外科治療、放射線治療、PSAの検査データを監視する積極的監視の3グループに分け、10年間にわたって詳しく追跡した。10年後の生存率はいずれも99%で差はみられなかった。積極的監視グループはPSAの値を定期的にチェックし、必要に応じて前立腺の精密検査を行った。33人が観察中に、がんが前立腺の外に広がり、13人は手術、16人は放射線治療に切り替えた。

   この研究を2016年9月14日付で報じたニューヨーク・タイムズに、チームリーダーのフレディ・ハムディ博士は「今後は、あなたががんで死ぬ確率は非常に小さい、とより正確な事実が伝えられる。治療には利点があり、がんが前立腺の外に広がるリスクは減る。ただ治療で副作用が出ることもある」と話す。外科手術は尿漏れやインポテンツ、放射線治療では尿漏れなどの副作用が出ることがあるという。

診断技術の進歩で患者が急増した?

   ハムディ博士によると、積極的監視グループで、手術や放射線治療を行わなかった患者の約8割には10年後も目立ったがんの進行はみられなかった。

   同紙は調査に加わっていないニューヨーク・スローンケタリングがんセンターのピーター・スカルディーノ外科部長にも取材した。「これまでしっかりした治療法の比較がなかったのでこの結果は非常に重要だ。早期がんの場合、積極的監視が有力な治療の選択肢になる。患者は治療法を急いで選ぶ必要がなく、じっくり考えることが可能になった」と研究を高く評価している。

   前立腺がんは日本でも急速に増え続けている。2015年には2000年の倍以上になり、胃がんや肺がんを抜いて部位別男性新規がん患者のトップになったとみられている。一方で、推定死者は約1万2000人で肺がんの約7分の1。前立腺がん患者の8割は65歳以上の高齢者といわれ、食生活の欧米化や高齢化の進展が増加の原因とされているが、診断技術の進歩による発見の増加という側面もあるようだ。前立腺がんと診断されても、主治医とは別の専門医に治療法のセカンドオピニオンを尋ねてみることが賢明なやり方かもしれない。