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2017年度予算案の甘い目算 頼みは「トランプ」、日銀、埋蔵金

   2017年度当初予算案が閣議決定され、一般会計の総額は97兆4547億円と、5年連続で過去最大になった。高齢化で医療や介護などに使う社会保障費が膨らみ、16年度当初より0.8%増、金額では7329億円増えた。政府は「経済再生と財政健全化の両立を象徴する予算」と自賛するが、内実は、トランプ米次期政権の政策期待の円安と株高で税収が伸びると見込んだほか、日銀の異次元緩和による国債金利の低下を当てにし、さらに一部特別会計からも繰り入れるといった手段を駆使し、なりふり構わず辻褄を合わせたもの。「トランプ」頼み、日銀頼み、「埋蔵金」頼みの薄氷の予算編成と言えそうだ(12月22日公表)。

   予算規模が膨らんだのは、歳出の3分の1を占める社会保障費が、2016年度当初比1.6%増の32兆4735億円となったのが主因だ。医療や介護費は高齢化の進展に伴う「自然増」が17年度も6400億円になるところだったが、財政健全化計画で5000億円増を目安に抑制するとされている。そこで、収入がある70歳以上が払う医療費の自己負担を増やしたり、高収入の会社員らが払う介護保険料を高上げしたりして、なんとか計画の水準に抑えた。

  • 2017年度予算編成が公表された
    2017年度予算編成が公表された
  • 2017年度予算編成が公表された

円安頼みの税収増を当て込む

   歳出改革については、社会保障の負担と給付という大テーマで、大手紙でも「社会保障 踏み込み不足」(日経16年12月23日付朝刊)などと酷評された。消費税増税も絡めた議論が今後も続くが、今回の予算編成では、歳出もさることながら、歳入面の小手先の対応が目立った。

   歳入は、税収、借金(国債)、「その他収入」の3つからなる。まず税収は、安倍晋三首相自身、アベノミクスの成果として政権復帰以降の税収増加をPRしてきており、アベノミクスの「支柱」ともいえる。それが、2016年度の税収見積もりを大幅に下方修正し、当初予算の57.6兆円を1.7兆円下回り、15年度実績の56.3兆円も割り込むとした。このため、16年度補正予算案で1.7兆円の赤字国債を発行せざるを得なくなり、当初予算と補正後を比べると、新規国債の発行は4兆円余り増えることになった。

   税収減を安倍首相は「円高(による企業業績の悪化)が要因」と説明している。さすがに、これには、「これまでの税収増加が景気の底上げの成果ではなく、円安頼みだったと認めたようなものだ」(毎日12月20日付社説)と酷評する声がかかるが、図らずも、2017年度予算編成は、まさに円安頼みの税収増を当て込むことになった。

外国為替特別会計の運用益を全額一般会計へ

   2017年度の税収は16年度の見込み額をベースに、17年度の政府の成長率見通しなどを勘案して弾く。16年度の税収落ち込みで、17年度の政府経済見通しで名目2.5%と高めの成長を見込んでも、当初予算同士を比べて17年度の税収を16年度よりプラスにするのは難しいとみられていた。ところが、出来上がりは16年度当初比1080億円増の57兆7120億円となった。わずかながら税収をプラスにした「マジック」の素が、トランプ氏当選後の円安・株高、特に円安で、企業業績の回復で法人税が持ち直すとともに、春闘の賃上げ効果で個人の所得税も伸びる――というシナリオを目いっぱい盛り込んで数字を弾いたというわけだ。

   次に、国債だが、2017年度の新規国債の発行額は34兆3698億円と、16年度当初よりなんとか622億円の減額になった。アベノミクスが始まってから最も少ないが、これとて、税収増に加え、利払い費の減で帳尻を合わせたもの。金利が上がって利払いが増える事態に備え、国債の「想定金利」は高めに設定するが、17年度は、16年度から0.5ポイントも低い1.1%としたことより、国債の元利返済に充てる「国債費」を約5000億円抑制する効果があった。もちろん、長期国債の金利を0%前後に操作するという日銀の金融政策の「支え」があればこそだ。

   さらに、税収、国債の利払い費減だけでは、歳出増に追いつかないということで、「その他収入」の外国為替特別会計に目を付けた。ここから運用益2.5兆円を全額、一般会計に繰り入れたもので、通常は7割程度とされ、全額は異例。まさに奥の手と言える。

PB、2020年度黒字化の公約達成は「絶望的に」

   ただ、このように「無理を重ねて作り上げた数字」(全国紙経済部デスク)だけに、先行きの経済情勢によって、見込みが外れる恐れもある。特に、トランプ次期政権がまだ発足もしていない段階での円安・株高だけに、「期待先行」の段階であり、米国経済が好調な場合も、米国の継続的な利上げが予想される中で、日本だけゼロ金利を維持できる保証はない。「円高への反転や金利上昇リスクはある」(エコノミスト)。

   そもそも、政府が健全化の指標とする「基礎的財政収支(PB)」の赤字は2017年度予算案で10.8兆円を超え、5年ぶりに悪化する。税収増を見込んでも、社会保障費などが増えるためで、国・地方合計のPBを2020年度に黒字化する政府の公約達成はいよいよ絶望的になってきた。