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ヤマト「未払い残業代、支払います」 それでも社員に「失望感」のワケ

   宅配便最大手のヤマト運輸が2017年春闘で、宅配便の指定配達時間のうち、6月中をめどに「正午から午後2時」の時間帯をやめるほか、「午後8時から9時」の時間帯を見直し、「午後7時から9時」に変更すると、ヤマト運輸労働組合に正式に回答した。「正午から午後2時」までの時間帯に宅配便の配達がなくなるわけではないが、時間帯の指定ができなくなるなど、私たちの生活にも少なからず影響がありそうだ。

   ヤマトはアマゾン・ジャパンなどインターネット通販の普及で宅配便の取扱量が急増している。ヤマト労組は配達員(ドライバー)の人手不足が深刻化し、長時間労働が常態化しているとして、今春闘で経営側に改善を求めていた。会社側は再配達を受け付ける締め切り時間について、4月24日から、現行の「午後8時」から「同7時」に変更すると表明したほか、アマゾンなど大口顧客との契約を見直し、繁忙期に荷物の受け入れを抑制する考えも示し、最終的に労使が妥結した。

  • 配達員の人手不足が深刻化し、長時間労働が常態化(画像はヤマト運輸ウェブサイトより)
    配達員の人手不足が深刻化し、長時間労働が常態化(画像はヤマト運輸ウェブサイトより)
  • 配達員の人手不足が深刻化し、長時間労働が常態化(画像はヤマト運輸ウェブサイトより)

労働基準法違反で是正勧告受けた支店も

   配達時間の指定は、比較的利用が少ない昼の時間帯をやめることで、ドライバーが昼休みを取りやすくする。時間指定が集中する夜間の時間帯についても、幅を広げることでドライバーの負担軽減を目指す。

   ヤマトは2016年8月、神奈川県内の支店が元ドライバーらに残業代の一部を支払わず、昼食休憩も与えていなかったなどとして、横浜北労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けている。これを受け、ヤマトは全国のドライバーらグループの約7万人の社員を対象に、未払いの残業代がないか労働実態の調査を進めている。

   今春闘で会社側は「営業所単位で休憩する時間帯を決定し、管理を徹底する」と表明したが、未払い残業代をどのように支払うのかについて具体的には言及しなかった。このため、社員の間では「会社は本気で未払い残業代を支払う気があるのか」など、疑問の声が上がっている。

帰宅タイムカード押した後のサービス残業

   マスコミ報道でヤマトは「未払い残業代があれば社員に支払う」と表明しているが、未払い残業代の支払いには2年の時効がある。実態調査は所属長が社員に一人ずつ面接しているが、ある現役ドライバーは「過去2年間にサービス残業があれば、裏づけの証拠を示してほしいと言われた」という。残業代の支払いは過去2年分に限るほか、本当にサービス残業があったかどうかの証明は、社員側に証拠の提出を求めているようだ。

   ヤマトのベテラン社員によると、今回のアマゾンのネット通販の拡大とは関係なく、ヤマトでは少なくとも二十数年前からサービス残業が横行していた。「帰宅時間になるとタイムカードを押すが、その後に残って仕事をしたり、休日に出勤してもタイムカードなど押さず、休んだことにして仕事をしたりすることもある」という。「会社には規定時間だけ働き、きちんと休んだことにしなくてはいけないが、それでは仕事が処理しきれないため、サービス残業はやむを得ない」という。

   サービス残業をめぐるヤマトの闇は深く、マスコミ報道のように「サービス残業で未払い賃金があれば支払う」という単純な構図とはならないようだ。

   ヤマトの労使交渉は、安倍政権が重要課題に掲げ、今春闘の主要テーマとなった「働き方改革」の一環として注目されていたが、社員の間では失望感が広がっている。