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ネットで新聞はこう読まれる(前編)
『芸人式新聞の読み方』プチ鹿島さんインタビュー 
紙の読者の持つ「前提」が通用しない

   「高級な背広を着てハイヤーに乗り込むオジサン」は、新聞で言えば何新聞か。「オバマ米大統領(当時)の『銀座久兵衛』訪問」の裏にあった、マスコミ、首相官邸、ホワイトハウスの思惑は。

   『芸人式新聞の読み方』(幻冬舎)が読まれている。著者で「時事芸人」のプチ鹿島さんは大手紙、スポーツ紙、タブロイド紙の記事を縦横無尽に読み比べ、読者が予想もしない視点を提示する。

   「グレーゾーン」や「オッサンのうかつな暴論」を楽しめ――。そう主張する鹿島さんに、時事ネタが100倍楽しめる「新聞の読み方」を聞いた。

  • 「時事芸人」のプチ鹿島さん
    「時事芸人」のプチ鹿島さん
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新聞6紙、スポーツ紙5紙、夕刊紙3紙の読み方

――日々どれくらい新聞を読んでいるのですか。

鹿島 大手紙は、朝日、読売、毎日、日経、産経、東京の6つを読んでいます。紙で購読しているのは朝日、読売、日経で、あとの3紙は電子版。
余談ですが、読売を紙で購読している理由は「電子版だけの契約が結べないから」です。紙の月額購読料に150円足すと電子版も購読できるんです。
スポーツ紙5紙は、紙で読むようにしています。コンビニやキヨスクで手に取ったとき、一面の賑やかさ、カラフルさ、文字が躍る感じ、紙の匂いを味わいたいんですよね。
東スポ、日刊ゲンダイ、夕刊フジの3つの夕刊紙は、昔から読む習慣がありました。
大手紙で初めに購読を決めたのは、朝日でした。朝日は、新聞の「王道」であり「ベタ」。嫉妬も含まれているでしょうが、とかく他のマスコミにツッコまれやすい。
他紙や週刊誌の変化球や切り口、スキャンダリズムを楽しむには、他の情報を入れないまっさらな状態で「前提」を知っておく必要があります。朝日の記事を読み、「この記事は各所で話題になる」「ツッコまれる」と考えておけば、タブロイド紙や週刊誌がより楽しめますよ。
たとえば、ある女優が「脱いだ」とします。でも、何の情報も入れずいきなりヌード写真を見たら、「損した気持ち」になりませんか。変な話、「服を着ているとき」の活動を知ったうえで見た方が、味わい深くなるというものです。

――新聞を読む方法は、忙しい日々の合間を縫って確立させたのですか。

鹿島 新聞を読まない人には、「とにかく見出しだけでも、記事の並びだけでも見ておけば」とアドバイスしています。朝は忙しく、頭もぼんやりしています。そんなときは、見出しをチェックするだけでいいし、なんなら、その日のうちに読まなくてもいいんです。
僕も、新聞をネタにする前は「朝のうちに全部読まなくては」という強迫観念にとらわれていました。でも、そうすると結局、読むのが面倒臭くなっちゃうんですよね。
たとえば、森友学園の話題。
朝日が第一報を打ったのは2月9日ですが、そこから一週間寝かせ、各紙の記事を時系列で読み直した方が、むしろ流れをつかめます。
実は、あの池上(彰)さんも「朝は見出しだけ」と言っているのを最近知り 、「池上さんが言うならこれでいいんだ」と自信を持ちました。

紙とネットの「絶望的な温度差」

――ネットで新聞記事を読んだり、新聞記事への反応を追ったりすることはありますか。本書でも触れられている通り、ネット時代特有の「新聞の読まれ方」があるように感じます。本書の表現を借りれば、紙の読者とネットの読者の間に「絶望的な温度差」があるようですが。

鹿島 スポーツ紙と読者の関係って、理想的ですよね。 スポーツ紙には「大仰芸」や「美談」がつきものですが、紙の読者はそんな前提を知っているから、違和感を表明することはありません。
ただ、記事がネット配信された途端、送り手と受け手が共有していた「大仰さを楽しむ」関係が無視されてしまいます。
「稀勢の里バンザイ!日本人横綱バンザイ!」的なノリに代表されるように、スポーツ紙の論調は危なっかしいときもある。 だから、記事がネット配信されると「今まで頑張ったモンゴルの力士はどう思うの」という意見だって出てくる。
政治的な公正さを実現しよう、国籍や皮膚の色・性別をなくして平等にやろう、という時代の流れからすると、それは正しい意見です。ただ、スポーツ紙に関しては、 紙とネットで「絶望的な温度差」を感じます。紙の読者が知っている前提や文脈を、ネットの読者は知らない場合が多い。 紙の読者とネットの読者のどっちが良い悪いではなく「温度差」がある。

――最近、スポーツ紙もネット配信限定の記事を出すようになりました。

鹿島 同じ記事でも、見出しを変えるときがありますよね。つい先日も、モンゴル出身の大関・照ノ富士への野次に関する記事で、スポーツ報知が見出しを分けていました。
僕も、報知を紙で読んだときは「こういうひどい野次があったのか」と知って引いたのですが、紙面の見出しにはなかったのに、野次の内容そのものを見出しに取ったネット記事は「刺激」を優先してしまったと思いました。この時代、もうあれはいけません(編集部注:報知の3月26日配信記事の見出しは「照ノ富士、変化で王手も大ブーイング! 『モンゴル帰れ』」だった。 その後「モンゴル帰れ」は削除)。
ただ、16年に起こった関東第一高校(当時)・オコエ瑠偉選手の「チーター騒動」は考えさせられました。スポーツ紙の報道や高校野球のトレンドを知る人なら、チームメイトに(オコエ選手が)チーターと呼ばれているという前提は把握していたはず。
そんな状況の中、スポーツ紙は大仰に「(オコエ選手が)サバンナを走る」と書きました。前提を知らないネットユーザーが「差別じゃないか」と憤るのもわかる。その一方、「チーターというあだ名」を知る人が読めばいつもの「大仰芸」だという解釈にもなる。 紙の読者とネットの読者の温度差をみた一件でした。

ゴシップは人に話さず「寝かしておく」

――ネットニュースの構造面の問題もあるように感じます。SNSのタイムラインに記事が流れてきたら、スポーツ紙も朝日もネットメディアも読者には同じに見える。メディアの違いが分かりにくいように思いますが。

鹿島 そうですね。フェイクニュースや「ポスト真実」という言葉が話題です。いよいよフェイクニュースとの付き合い方を考える時期にきたのだと思います。
僕は、ゴシップをすぐ人に話すのでなく、「寝かしておきたい」性格です。ここで自分の心にスクラップしておくと、後になって、どの記事が今起きていることとつながるのか分かります。
ASKAさんの薬物使用報道はその典型でした。東スポが「イニシャル」「影絵」で報じた時点で大声で発信してしまえば拙速です。まだ確定してないわけですから。 文春で実名報道されて初めて、「あ、東スポが書いていたな」と答え合わせを堪能できます。
今はみんな、情報をすぐ発信したがる。手に入れた情報はひとまず心にスクラップし、自分でひそかに楽しんでおけばいいんです。フェイクニュースかもしれないと分かったうえで楽しむのもまた一興です。(後編に続く)

プチ鹿島氏 プロフィール

1970年長野県生まれ。大阪芸術大放送学科を卒業後、大川興業に所属 。お笑いコンビ「俺のバカ」での活動を経て、フリーとなる。2012年からオフィス北野所属。スポーツからカルチャー、政治まで幅広いジャンルの時事ネタを得意とする「時事芸人」としてラジオ、雑誌を中心に活躍している。
著書に『教養としてのプロレス』『東京ポッド許可局』(共著) がある。