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電力大手、減収相次ぐ それでも新電力の影響は「軽微」

   東京電力ホールディングス(HD)の2017年3月期決算によると、売上高は前年比11.7%減の5兆3577億円で、2年連続の減収。経常利益は2276億円の黒字だが、原油価格の下落にあわせて電気料金を値下げしたことなどが響き、前年から30.2%の減益だった。

   減益の要因は、電気料金の値下げに加えて、2016年4月にはじまった電力小売りの完全自由化が少なからず影響している。東電はこの1年に、管内の7.9%にあたる181万件の契約を新電力に奪われたとみられる。

  • 電力大手の決算はさえなかったが……
    電力大手の決算はさえなかったが……
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関東エリアが草刈り場に

   電力大手10社の2017年3月期決算が2017年4月28日に出そろった。売上高は四国電力を除く9社で減収。東京電力HDや関西電力、中部電力など8社の経常利益が減益となった。

   足を引っ張ったのは、火力発電の燃料となる原油や液化天然ガス(LNG)の価格の値下がり。燃料費の負担は10社で約3兆4000億円と、前年同期から約1兆1000億円と大きく減った。それが燃料費の変動を料金に反映する「燃料費調整制度」に基づき、料金を値下げしたことで減収となった。

   加えて、電力小売りの完全自由化による顧客の争奪戦が影響した。電力小売りの完全自由化で、新電力の参入が相次いだ結果、家庭向けや商店向けのほか、工場や事務所、自治体の一部などの大口先にも利用者が流れた。

   東京電力では、燃料費の下落に伴う電気料金の値下げと新電力への契約変更などで、電気料収入が約8100億円減少。そのうち、9割(約7720億円)を占めたのが値下げによる減収だ。

   東電管内では、東京ガスやJXエネルギーなどの新電力が「安さ」を売りに、他のサービスとのセット販売で攻勢をかけたものの、数字のうえでは、その影響は軽微だった模様。ただ、「失った181万件の契約件数は、全国のほぼ半数にあたります。そのことを考えると...... 厳しく受けとめています」と、東電は言う。

   経済産業省の認可法人である電力広域的運営推進機関(OCCTO)によると、電力小売りの全面自由化で電力契約を切り替えた件数は全国で342万7900件だった(3月末時点)。契約総数の5.5%が新電力などに切り替えたことになる。

   新電力の販売攻勢は大都市部ほど激しく、東電から新電力への切り替えは全国平均(5.5%)を2.4ポイント上回った。OCCTOの調べでは、関西電力で72万件が、中部電力では29万件が、九州電力では21万件が、新電力に切り替えた。東電を含む、この4社で全体の約9割を占めている。

   東電は、「当初から予想はしていましたが、なかでも関東エリアが草刈り場になったといえます」と話している。

太陽光事業者の倒産が過去最多

   2011年3月の東日本大震災と東京電力・福島第一原子力発電所の事故、それに伴う電力大手の原発停止を契機に一気に高まった太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーへの期待感。その一方で、原発停止と燃料費のコストアップで経営不振に陥った電力大手が提供する電気料金の高騰で、新電力は「価格競争に勝てる」と判断。参入が相次いだ。

   ところが、原発事故から6年が過ぎ、一部の原発は稼働を開始。電力大手の経営、また電気料金も落ち着いてきた。さらに、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)に基づく買い取り価格の引き下げが度重なったことで、新電力の経営環境も悪化してきた。

   多くの新電力が参入したものの、ほとんどの新電力は自らの発電設備を持っておらず、発電設備がある企業や電力卸売市場から電力を購入することで販売電力をまかなっているのが現状。価格競争が激しくなれば、詰まるところは体力勝負になり、資本力の強い大手に集約される。

   思うように電気料金が下げられず、下げれば経営が圧迫する。切り替えメリットも薄れて、利用者も増えない悪循環に陥りつつある。

   ある証券アナリストは、「電気料金が安いといっても、セット販売で『わかりづらい』との指摘があり、それがクレームにもなっていました。ブームが去って、(利用者が)冷静に判断しているといえます」と話す。

   東京商工リサーチの「2016年度 太陽光関連事業者の倒産状況」(2017年4月6日発表)によると、2016年度の倒産は68件に達し、過去最高を更新した。これまで最多だった15年度の61件を7件上回った。

   負債総額は146億4100万円で半減したが、2015年度は新電力の日本ロジテック(東京都)が約120億円の負債を抱えて倒産した、大型倒産があったため。16年度は小規模業者の経営悪化が浮き彫りになった格好だ。

   原因別でみると、「販売不振」が最多の36件と全体の半数を占めた。なかでも、「運転資金の欠乏」が前年の4件から11件に突出。同社は、売上高の急拡大から一気に受注減に陥って資金繰りに窮したケースや、業容拡大を見越した過剰在庫で収支バランスが崩れて資金繰りが破たんしたケースが多いとみている。

   2016年4月から、電力会社との接続契約が未締結の認定は失効。また、事業用太陽光発電の買い取りは入札への移行が予定されるなど、太陽光発電への優遇策は大幅に縮小した。震災後のブームに乗って、安易に参入した太陽光発電の事業者を中心に、今後も淘汰が進む可能性が高まっている。