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いじめを匿名通報できるアプリ 導入する市は、どう運用するのか

   千葉県柏市の市立中学校20校で、生徒が匿名でいじめを通報できるスマートフォンアプリを導入する。通知は市教育委員会に届く仕組み。

   市では「脱・いじめ傍観者」に向けた指導を行っているといい、いじめる側・いじめられる側以外の第三者の生徒が行動を起こせるようにするのが狙いだ。

  • 「STOPit」ではチャット形式でやり取りできる(画像提供:ストップイットジャパン)
    「STOPit」ではチャット形式でやり取りできる(画像提供:ストップイットジャパン)
  • 「STOPit」ではチャット形式でやり取りできる(画像提供:ストップイットジャパン)
  • いじめの報告内容入力画面(画像提供:ストップイットジャパン)

チャット形式で生徒と市教委がやり取り

   柏市教育委員会の生徒指導室の担当者は2017年5月23日、J-CASTニュースの取材に対し、アプリは22日から市内の市立中学校に順次導入を始め、6月中に全20校で使用できるようにする予定だと明かした。

   そのアプリ「STOPit」(ストップイット)は米国のIT企業が開発したもので、日本法人であるストップイットジャパン(東京都中央区)の協力を得ている。チャット形式でのメッセージのやり取りや画像送信が可能で、発信者の情報は学校名と学年のみの匿名の形で、いじめの情報を市教委に伝えられる。担当者によると、各中学50~80%ほどの生徒がスマホを持っているといい、生徒にとって身近で使いやすいとの考えだ。アプリはタブレットやPC、インターネット接続可能なゲーム機でも利用できるという。

   生徒から送信があると、市教委内の2部署、いじめ・非行担当部署と少年補導センターに通知が届く。担当者は「通知があれば必ずその生徒に返信します。たとえば、学校に連絡してもよいかなどを生徒とやり取りし、慎重に対応していきます」と話す。必要なら学校・市教委・生徒の三者で相談の場を設ける。「はじめは市教委2部署のみへの通知ですが、ゆくゆくは当該中学校の校長に直接送信されるようにしたいと検討しています」としている。

   アプリでは、この「通報」以外にも「助けを求める」という機能がある。24時間受付対応する「こどもSOSダイヤル」をはじめ、関係する複数の電話相談窓口にワンタッチで発信できるようになっている。

「傍観者から当事者へ」

   柏市では、いじめ防止基本方針の改訂から3年目を迎える2017年、「いじめ傍観者」にならないことに視点を当てた指導に力を入れている。アプリはいじめの「抑止力」として期待しており、同時にいじめが起きる雰囲気をつくらないようにする教育も行う。担当者は「教育現場ではクラスがいじめ問題に敏感かどうかといった雰囲気次第で、いじめが悪化することもあれば解決しやすくなることもあります」と話す。

   専用の動画教材「私たちの選択肢」を使った授業を実施しており、アプリ「STOPit」の使い方の説明もこの授業内で行っているという。動画は、さまざまな学校教材制作に取り組む藤川大祐・千葉大学教育学部教授の監修のもと、市とストップイットジャパンも協力して制作された。

   藤川教授は5月23日、J-CASTニュースの取材に対し、動画教材では「いじめ傍観者にならず、自分も当事者だという意識を持ってもらえるよう工夫しています」と話す。ストーリー形式になっており、友達がクラス内でいじめをしていると知った主人公が、やめるように声をあげるか否かを悩む。そこで画面が一度暗くなり、「あなたならどうするか」と実際に教室の生徒たちに問いかける。「動画を見ていた生徒たちが、いきなりその動画内のいじめについて自分で考えることになります。傍観者から当事者へという状況になり、深く議論することになります」と藤川教授は話す。

「ここ3~4年で、若い世代のスマホ普及率が急速に上がってきました。グループチャット機能を持つ通信アプリの影響もあり、周囲が感知できない閉じられた空間でのいじめも少なくありません。子どもたち自身がアクションを起こさないと発覚すらしない問題もあるでしょう。それを放置しないためには『脱・いじめ傍観者』に向けた取組みが重要と考えます。アプリは、生徒が声をあげやすくなる手段の1つになり得るでしょう」