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漫画になった静岡のソウルフード 「さわやか」ハンバーグの物語

   静岡県民から絶大な支持を得ている「炭焼きレストランさわやか」(以下、さわやか)という外食チェーンがある。看板メニューのハンバーグは「静岡のソウルフード」との呼び声も多い。

   創業40年を迎えたその「さわやか」が、現在までの歴史を描いた漫画作品を公式ウェブサイトで公開してにわかに話題を集めている。運営するさわやか社(本社・静岡県浜松市)の担当者はJ-CASTニュースの取材に、漫画には「数々の『ピンチ』を『チャンス』に変えてきた歴史と、他のレストランにはない『美味しさ・楽しさ』の『秘密』が隠されています」と自信を示す。

  • 「さわやか物語 創業編」の冒頭(提供:メーカーズマーク)
    「さわやか物語 創業編」の冒頭(提供:メーカーズマーク)
  • 「さわやか物語 創業編」の冒頭(提供:メーカーズマーク)
  • 「さわやか物語 創業編」では富田重之社長の食への思いが明かされる(提供:メーカーズマーク)
  • 「さわやか物語 天使からの手紙編」のある1ページ。看板メニュー誕生の経緯が描かれる(提供:メーカーズマーク)
  • 「さわやか物語 工場設立編」のある1ページ。狂牛病問題が描かれる(提供:メーカーズマーク)

社長が創業を決意した理由

   「さわやか」の漫画が話題を集めたきっかけは、その取材・執筆を手がけた漫画家・久遠まことさんのツイッターでの発信だった。2017年5月22日、「静岡県に店舗を展開する『炭焼きレストランさわやか』の採用情報ページに『さわやか物語』という漫画が公開されました。社長、常務に取材を行い、採用者向けにさわやか様の創業物語を漫画で伝えられるよう精一杯描かせて頂きました。宜しければぜひ」というメッセージとともに、漫画が掲載されたさわやか社のサイトへのリンクを記載すると、わずか2日後の24日時点で2200回以上リツイートされていた。

   静岡県内のみで展開している「さわやか」だが、久遠さんのツイートには「ツーリングで『さわやか』何回か訪れております。埼玉県川越のライダーです」という反応もあり、グルメ界では県を越えて知られる。またツイッター上では以前から「静岡のソウルフードでもある『さわやか』」「さわやかで食べたハンバーグは人生で一番おいしかった」「さわやか(静岡)のハンバーグを食べるためにたったそれだけの理由で一瞬、田舎帰ろうかな」といった投稿がいくつも見つかる。

   そんな「さわやか」だが、決して順風満帆に営業してきたわけではない。その歴史をたどったのが5月22日に公開された「さわやか物語」で、「創業編」「天使からの手紙編」「工場設立編」の3部構成、各部5ページの全15ページでまとめられている。

   ストーリーは、同社の富田重之社長が創業を決意した40歳当時の1976年までさかのぼる。体が弱く、戦後の食糧難から結核を3回患うなど闘病生活が長かった富田氏は、体調が安定期を迎えたころ「食べる」ことに唯一の楽しみを感じていた。「食べることは生命を支える原点」であり、「自然の恵みから生きる力を頂いている」。そう気づいた富田氏は、感謝の心を形にするため、飲食店の開業を決意する――。漫画はこうした描写から始まる。

   「さわやか」という名前の由来も明かされており、感謝の心を多くの人に伝えられる「さわやか」な男になりたいという富田氏の思いを込めるとともに、自然のいきいきとした状態も表現する言葉として決められたという。さらに看板メニュー「げんこつハンバーグ」「おにぎりハンバーグ」誕生の経緯や、狂牛病(BSE)による深刻な風評被害とその克服、といった節目ごとの出来事が描かれていく。

   ツイッター上では読後の感想をつづる投稿が複数見つかる。

「さわやかの漫画読んで少し感動した」
「漫画も読んでさわやかのハンバーグ食べたくなっちゃった」
「さわやかの創業漫画、あたり前のことがとても大切に書いてあった。あたりまえの事を普通に実践するのは難しいよね」

なぜ「新卒採用サイト」で創業の歴史を載せたのか

   漫画を制作した経緯について、さわやか社の担当者が6月6日、メールを通じてJ-CASTニュースの取材に答えた。2017年度に新卒採用の専用サイトを新設する機会があり、その際にウェブサイト制作会社のメーカーズマーク(本社・静岡県浜松市)から漫画の提案を受けた。

「これまでは『文字情報』を中心に『創業の精神』『会社のこだわり』などを掲載していましたが、『漫画』で表現することで、若い世代を中心に、より多くの方に『さわやかの考え方と歴史』を知っていただけるチャンスになると考え、制作に踏み切りました」(さわやか社の担当者)

   採用サイトでこうした内容を掲載したのは、従業員の構成とも関係している。

「『さわやか』で働く従業員は、ほとんどが『お客様』としてさわやかを利用して興味を持った人たちです。そんな働く仲間になる皆さんに、『プライドを持って仕事に取り組んでもらいたい』という想いから、漫画化にあたりテーマを『創業の精神』と『会社の歴史』にするよう提案しました」(さわやか社の担当者)

   また「就職活動中の学生さん、アルバイトをしたいと考えている方、『さわやか』に興味を持ってくださっているお客様、皆さんが、それぞれ、気軽に、楽しく、読んでいただきたいと考えました」と対象読者は就活生に限らず、「3部構成で分かりやすく出来上がったので、『メインホームページ』にもバナーを設けて、広く一般のお客様にも読んでいただけるように、情報発信していきたいと考えています」と展望している。

   作者の選任も含めて実際に漫画制作を進めたメーカーズマークの担当者は、J-CASTニュースの取材に対し、久遠さんに執筆を依頼した理由を明かす。

「まず久遠まことさんが漫画家として多くの作品をリリースされていた事にありました。採用活動に使用する漫画ですので、10代後半~20代の方に支持される方に描いて頂く必要があると考えました。久遠さんは既に多くのファンを獲得していた事、また他の広告漫画についても描いていた実績があった事などが、依頼の決め手になりました。

また、絵のタッチが万人に受け入れられやすく、柔らかな印象だった事もポイントのひとつです。固くなりがちな『創業物語』が、読みやすく受け入れられやすく仕上がったと思います。そして『静岡県出身の方だった事』『さわやかを好きでいてくれた事』は大きな理由のひとつです」

久遠まことさん「多くの方に愛されている企業なだけにプレッシャーを感じました」

   メーカーズマークの担当者によると、久遠さんは創業社長の富田氏に直接会う中で、その「想い」を何度も繰り返し聞いたという。構想から調整作業まで4か月かけて完成させ、「ストーリーは勿論の事、セリフのひとつひとつやキャラクターの表情など、細部にまでこだわって制作いたしました」と自信をのぞかせる。

   J-CASTニュースの取材に答えた久遠さんは、漫画執筆の話を受けた時「幼い頃から慣れ親しんできた大好きなさわやか様の創業物語を漫画で描かせて頂けることを大変嬉しく思いました。さらに、静岡県出身の漫画家として私を選んで下さったことを光栄に思いました」と明かす。ただ同時に「多くの方に愛されている企業なだけにプレッシャーを感じました」とも述べる。

   執筆にあたっては「さわやか様の奥深い歴史を限られたページ数の中で表現することに苦労しました。また、取材をしてその方の人生をノンフィクションで描くことは初めての試みでしたので、大変勉強になりました」と大きな経験になったようだ。

   最後に、漫画の取材・執筆を通じて印象に残ったことを聞くと、久遠さんはこう述べていた。

「社長のさわやかに対する熱意が、強く印象に残っています。そんな社長の想いを受けて精一杯描かせて頂いた漫画が、これほどまでに反響が大きく、さわやか様にも喜んで頂けたことをとても嬉しく思っております。あとは、取材で伺った際にハンバーグをご馳走して頂いたことです(笑)」