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動き出す高速道の「地下化」 「日本橋」以外にも広がるか

   国土交通省が東京・日本橋の首都高速道路を地下に移す方向で検討することになり、日本橋の再開発が進む可能性が出てきた。日本橋の景観改善に異論は少ないと思われるが、問題は数千億円とされる費用負担だ。現状では地下化のメリットを受ける民間の再開発事業者らが応分の負担をすることになりそうだ。ただし、首都高の景観改善と耐震化に役立つ「一挙両得」の再開発が日本橋以外でも実現するかどうかは見通せない。

   国の重要文化財に指定されている日本橋は、1964年の東京五輪に合わせた首都高の突貫工事で、上空を首都高が走る形となり、景観が大きく損なわれた。このため、首都高を地下に移設するなど日本橋をかつての姿に戻そうとする運動が、これまで官民の間で起きていた。

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国、都、民間...

   日本橋の商工業者らが1999年に発足させた「日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会」は、2015年9月に衆議院、2017年6月に参議院に「首都高の撤去または移設」を求める請願を合計44万人の署名とともに提出した。同委員会は地元の「名橋『日本橋』保存会」らとともに「日本橋に青空を!」をスローガンに活動してきた。

   日本橋の景観改善は、小泉純一郎政権時代にも議論になった。2006年には小泉首相の私的懇談会である有識者会議「日本橋川に空を取り戻す会」が首都高を地下にもぐらせる報告書を提出。報告書は日本橋周辺の首都高の地下化の費用を4000億~5000億円と試算。このうち約1000億~2000億円を国が負担し、残りは不動産価値向上などで経済効果(約1.4兆~2.6兆円)が見込めるとして、民間に負担を求めた。

   問題は、この数千億円とされる地下化の費用負担だ。国土交通省は「国、東京都、首都高速道路株式会社と共同で、日本橋周辺の町づくりと連携して首都高の地下化に向けて取り組んでいく。今後、関係者で計画案について検討していく」とコメント。詳細はこれからだが、日本橋再開発と合わせ、民間に応分の費用負担を求める考えを暗に示唆している。

   関係者によると、地下化は竹橋ジャンクション(JCT)と江戸橋JCTの約2.9キロの区間を想定。当初、首都高速道路会社は老朽化した日本橋付近の区間を高架のまま約1400億円かけて立て替える予定だったが、地下化によって事業費は数千億円に膨らむことになる。

耐震化を進める狙いも

   関係者の間で浮上しているのは、首都高の地下化に合わせ、東京都が周辺の再開発ビルの容積率を上げ、そこで得られた収益の一部を地下化の費用に当てるスキームだ。経済同友会の小林喜光・代表幹事は、記者会見で「費用負担としてはPFI(民間資本を活用した社会資本整備)やPPP(官民連携事業)が普通の発想だ。(首都高の地下化が)都会地区における地下の利用という意味での新しいイノベーションと捉えれば、それなりに意味がある」と述べている。

   前回の東京五輪に合わせて建設した首都高は50年余りが経過し、老朽化が問題となっている。事実、日本橋周辺の首都高は、2011年3月11日の東日本大震災の際は「激しく揺れ、倒壊するのではないかと皆が心配した」(周辺住民)という。今回、国交省が地下化の検討を表明したのは、景観改善で日本橋の再開発を進めるだけでなく、老朽化した首都高の耐震化を進める狙いがある。

   しかし、老朽化した首都高の地下化を進められるのは、江戸時代に五街道の起点として栄え、現在も「日本の顔」として全国に知られる日本橋だから。民間の資金やノウハウを活用し、官民が連携して首都高の耐震化と再開発を両立できるのは、東京都心でも日本橋くらいに限られるだろう。周辺の首都高の地下化は2020年東京五輪・パラリンピック後の着工を目指すというが、果たして日本橋に続き、再開発・耐震化の動きが浮上するか、今後の動向に要注目だ。