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手術ロボットVS人の手 コストが低く時間がかからないのは...

   先端技術に興味がない人でも、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」の名前を聞いたことがある人は多いだろう。

   こうしたロボットを用いた手術の事例は増えつつあるが、人の手による手術とどれほどの違いがあるのか。米スタンフォード大学医学部のベンジャミン・チョン准教授らが、実際に行われた手術を比較・検証した調査結果を2017年10月24日、米国医師会雑誌電子版に発表された。

   明らかになったのは、「ロボット手術は時間がかかりがちで費用も高額」という実態だ。

  • 常に最先端技術が早くて便利というわけでもなさそう
    常に最先端技術が早くて便利というわけでもなさそう
  • 常に最先端技術が早くて便利というわけでもなさそう

人の手のような内視鏡手術ができるロボット

   そもそもロボット手術と言っても、ロボットが自律して手術を行うわけではなく、医師がロボットアームを操作して「内視鏡手術」を行うことを指し、「ロボット支援内視鏡下手術」などと呼ばれる。

   内視鏡手術とは施術部位に数センチの穴をあけ、体内を観察できるスコープを通して内部をモニターで見ながら、やはり小さな穴から入れた器具で手術を行う手法だ。大きく切開する従来の手術に比べて出血量が少なく患者への負担も少ないとされ、「腹腔鏡手術」として消化器系の手術での導入はかなり進んでいる。

   ロボットアームとはいえ人が操作をして内視鏡手術をするのでは、人の手で手術するのと変わらないのではと考えるかもしれないが、ロボットアームの先端は人の手のように複雑な動きをすることができる。

   つまり、人の手のような高度で繊細な操作を内視鏡手術でできるというメリットがあるわけだ。

   しかし、実際にロボット手術が高い効果を上げているのか学術的な検証は行われておらず、チョン准教授らは内視鏡手術で高い技術を要求される腎臓摘出手術のデータを対象に分析に取り組んでいる。

   具体的には2003~2015年までに全米416の病院で実施された、臓器全体の摘出を必要とした腎臓腫瘍患者約2万4000人のデータを収集。人の手による腹腔鏡手術を受けた約1万5000人とロボット手術を受けた5000人の比較を行った。

   その結果、術後の状態や入院期間の長さには統計的な差がなかったが、ロボット手術では手術時間が4時間以上になったものが46.3%だったのに対し、人の手による手術では28.5%。また、手術コストもロボット手術は人の手による手術を患者一人当たり2700ドル(約30万円)上回っていた。

   この結果について、チョン准教授はスタンフォード大学のプレスリリースの中で、

「手術ロボットが使用する器具には使い捨てのものが多く、これらのセッティングや交換、破棄などの作業にかかる時間やコストが人の手による腹腔鏡手術との差を生み出していると推測される」

   とコメントしている。

常にロボット手術が有効とは限らない

   調査では近年のロボット手術の拡大も明らかになっており、2003年には腎臓摘出の外科手術を受けた人のうちロボット手術は約1.5%だったが、2015年には約23%にまで増えている。

   この増加についてチョン教授は、「病院側がロボット導入にあたって生じた莫大な初期投資を回収するために積極的に患者にロボット手術をすすめている」「患者自身もロボット手術が技術的に進歩した効果の高い手術だと考えている」などいくつかの理由を挙げている。

「もちろん、ロボットを使用することで医師の負担が減り、患者にとっても特定の手術では明らかに人の手より大きなメリットがあります。とはいえ、あらゆる状況でロボット手術が良いというわけではありません」

   技術は進歩するものであり、これから時間が経過すればロボット手術はさらに洗練され、手術時間やコストも小さくなると予想される。しかし今回の研究は、現在のところロボット支援手術が常に正しい選択ではないことを示唆していると言えるだろう。