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「深い夜、甘い夜、皆さんとの幸福を夢見るミンジです」 北朝鮮兵の亡命誘う「拡声器放送」の中味とは

   北朝鮮の兵士が2017年11月13日午後、南北軍事境界線上にある板門店経由で亡命したことを受け、韓国側が情報戦で攻勢を強めている。軍事境界線がある非武装地帯に設置されたスピーカーから行う放送で、亡命兵の様子を詳しく紹介し、栄養状態が劣悪だったことにも触れている。

   実はこの「拡声器放送」の番組内容はかなりバラエティーに富んでおり、過去に亡命した北朝鮮兵の中には、拡声器放送が亡命を決心する後押しになったと話した人もいる。今回の亡命劇が北朝鮮側に伝わることで、北朝鮮兵の士気はさらに下がりそうだ。

  • 板門店経由で亡命した北朝鮮兵も拡声器放送を聴いていたとみられる(2008年撮影)
    板門店経由で亡命した北朝鮮兵も拡声器放送を聴いていたとみられる(2008年撮影)
  • 板門店経由で亡命した北朝鮮兵も拡声器放送を聴いていたとみられる(2008年撮影)

軍事境界線の10~20キロ先に届く

   拡声器による放送は1960年代から断続的に行われ、最近では2015年8月に中止することで南北が合意。しかし、16年1月に北朝鮮が4回目の核実験を強行したことを受け、改めて再開されていた。現在行われている拡声器放送は韓国国防省による「自由の声」放送で、拡声器からの音声は軍事境界線の10~20キロ先に届くという。拡声器と同内容がFMでも放送されている。

   東亜日報や通信社の「ニュース1」などが2017年11月26日に伝えたところによると、「自由の声」は亡命事件発生から連日のように事件を取り上げている。事件の経緯はもちろん、亡命兵士の栄養状態が悪いことや、事件の際に亡命兵士を追いかけた北朝鮮兵が軍事境界線を越え、停戦協定に違反したことにも触れている。

女性アナウンサーが韓国の事情を語りかける

   具体的な放送内容が詳細に報じられることは少ないが、主に東アジア地区のテレビやラジオを研究している「アジア放送研究会」が、16年5月18日の放送を全部録音して分析している。それによると、1日に放送される番組は全部で4時間20分。5~6回程度再放送され、全体で20時間が放送される。番組は大きく「報道番組」「韓国紹介番組」「北朝鮮の体制暴露番組」の3種類がある。メディアが注目するのは「報道番組」だが、それ以外もバラエティーに富んでいる。

   「今夜をミンジとともに」と題した番組では、「ミンジ」と名乗る女性アナウンサーが、韓国の恋愛事情をおりまぜながら「深い夜、甘い夜、皆さんとの幸福を夢見るミンジです」などと優しく語りかける。「労働新聞読み直し」は、労働新聞の内容を読み直した上で、その背景を伝える。「新しい生活を探した人達」では、週替わりで脱北者を招いて対談形式で近況を伝える...といった具合だ。

   こういった番組は確実に北朝鮮兵の耳に届いているようだ。ハンギョレ新聞などによると、6月13日に板門店よりも東方にある中部戦線の非武装地帯から亡命した北朝鮮兵は

「対北朝鮮拡声器放送を聴いて韓国の発展ぶりを知り、亡命の決心に影響があった」

などと話したという。今回板門店で亡命した北朝鮮兵も、入院中の病院で

「韓国のガールズグループの音楽が好き」

などと話したと報じられており、「自由の声」でK-POPを知ったとみられる。

   YTNニュースは、今回の亡命劇が「自由の声」で放送されることで、

「最前線に駐留する北朝鮮軍の心理に少なからぬ影響を与えると予想される」

と指摘している。