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『未来の年表』や『新聞記者』がヒット 出版界、2017年は「記者本」の当たり年

   独走する産経新聞ベテラン記者を、新顔の東京新聞ママさん記者が激しく追う――選挙予測記事ふうにいうと、こんな感じだろうか。

   このところ新聞記者が書いた本が目立っている。中でも、産経の河合雅司論説委員の『未来の年表』(講談社新書)が絶好調。ベストセラーになっている。それに迫る勢いを見せているのが東京新聞の望月衣塑子記者が書いた『新聞記者』(角川新書)。さらに朝日、毎日、読売の記者らも次々と参戦、2017年は「記者本」の当たり年となっている。

  • 河合雅司『未来の年表』(講談社新書・画像は講談社の公式ホームページより)
    河合雅司『未来の年表』(講談社新書・画像は講談社の公式ホームページより)
  • 河合雅司『未来の年表』(講談社新書・画像は講談社の公式ホームページより)
  • 望月衣塑子『新聞記者』(角川新書・画像は角川の公式ホームページより)

「日本のリスク」を大胆に予測

「2020年 女性の半数が50歳超え」
「2024年 全国民の3人に1人が65歳以上」
「2033年 3戸に1戸が空き家に」
「2040年 自治体の半数が消滅」

   河合論説委員の『未来の年表』は、このまま日本の少子化、高齢化が進むと、将来どうなってしまうのか、先々の年を明示して大胆に予測し衝撃を与えた。長年、人口問題に取り組んでいる著者が「日本のリスク」をわかりやすく説明している。2017年6月末の発売だが、先ごろ発表されたトーハンの年間ベストセラーランキングでは、新書部門で3位に入っている。

   望月記者の『新聞記者』は10月の出版。早くも4刷で、大手書店では売り上げベストテンに入っているところもある。望月記者は官房長官会見のストレートな質問ぶりなどで注目され、今年いちばん有名になった新聞記者。テレビや雑誌などにもしばしば登場し、露出が増えたことで知名度が上がった。マスコミ業界だけでなく一般にも読者が広がっているようだ。昨年『武器輸出と日本企業』(角川新書)を出しているが、こちらも好調で6刷になっている。

毎日と朝日が「校閲」で競う

   大手では朝日新聞の攻勢が目立つ。ライブドア事件、JAL破たん、原発事故関連などでも著書がある大鹿靖明記者は9月、『東芝の悲劇』(幻冬舎)を出して4刷。同じく経済関係では鯨岡仁記者が『日銀と政治』(朝日新聞出版)を10月に出版し、日経新聞でも紹介されていた。世界的に問題になっているタックスヘイブン問題では、パナマ文書でも活躍した奥山俊宏編集委員が、続編ともいえる『パラダイス文書』(朝日新聞出版)を11月に出した。奥山氏は昨年出版した『秘密解除 ロッキード事件』(岩波書店)で今年12月、第21回司馬遼太郎賞に決まった。

   このほか、5月に元中国特派員の吉岡桂子編集委員が『人民元の興亡』(小学館)、林望記者が『習近平の中国』(岩波新書)、金順姫記者が10月に『ルポ 隠された中国』(平凡社新書)と中国関係も立て続けだ。長く科学記者を務めてきた高橋真理子さんは9月に『重力波発見!』(新潮社)を出している。

   毎日新聞では、埼玉の祖父母殺しを扱った山寺香記者の『誰もボクを見ていない』(ポプラ社)が好調だ。6月の出版だが、アマゾンの「事件」ジャンルでトップに立ち、J-CASTのブックウォッチのランキングでも上位をキープし続けている。

   このほか5月に元中国特派員の工藤哲記者による『中国人の本音』(平凡社新書)なども出ているが、何といっても「校閲グループ」の活躍ぶりが目をひく。3月に『毎日新聞・校閲グループのミスがなくなるすごい文章術』(ポプラ社)、9月に『校閲記者の目』(毎日新聞出版)と連発、売れ行きも良いようだ。同じく校閲関係では朝日新聞の前田安正記者が4月に出した『マジ文章書けないんだけど~朝日新聞ベテラン校閲記者が教える一生モノの文章術~』(大和書房)などで対抗している。

読売記者が朝日から出版

   このほか目立つところでは、読売新聞の医療記者、高梨ゆき子さんが8月に『大学病院の奈落』(講談社)を出版した。15年度の新聞協会賞を受賞した「群馬大学病院での腹腔鏡手術」取材班のリーダーだった高梨さんが改めて白い巨塔の闇に迫った。長年「編集手帳」を担当し、名文記者として知られるコラムニスト竹内政明さんは、年頭に池上彰さんと共著で『書く力』を朝日新聞出版から出して話題になった。

   日経新聞では滝田洋一編集委員が8月に『今そこにあるバブル』(日本経済新聞出版社)。共同通信では石山永一郎編集委員が編者となって8月に『写真で見る日めくり日米開戦・終戦』(文春新書)を出したほか、硬派のエース軍司泰史編集委員も12月、『スノーデンが語る「共謀罪」後の日本』(岩波書店)を出版、世界的視野で「知る権利の今」をとらえ直す。

「書ける記者」探しが活発に

   現役の出版ラッシュにOBも負けていない。元読売記者の清武英利さんは毎年のように新刊を出しているが、今年も7月に『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』(講談社)、11月に『空あかり 山一證券"しんがり"百人の言葉』(講談社)など、現役時代のネタ元との関係を保ちながら再取材を重ねている。アフロヘアと節電生活でネットでも有名な元朝日記者の稲垣えみ子さんは6月に『寂しい生活』(東洋経済新報社)、9月に『もうレシピ本はいらない』(マガジンハウス)と忙しい。

   朝日の文化記者だった隈元信一さんは11月に『永六輔』(平凡社新書)を出している。

   出版界からすると、新聞記者はすでに取材済みの話を書くので、コスト的にも安上がり。加えて、筆力のある記者ならあまり手間もかからない。しかしながら、真面目な本が多く、これまでベストセラーが少なかった。今年は『未来の年表』『新聞記者』のようなヒット本が出ていることもあり、「書ける記者」「売れるテーマ」探しがこれから活発になりそうだ。