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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
教育国債で研究開発予算の増額を 京大iPS研「論文不正」の背景とは

   京都大iPS細胞研究所(CiRA)で、助教による研究論文捏造があった。その件で、ノーベル賞受賞者の山中伸弥所長の責任を追及する向きもある。

   研究員個人の論文捏造は言語道断であってはならないことだが、組織としてのCiRAは定期的に実験ノート提出を研究員にさせており、情報通報後の対応もしっかりしていた。個人と組織へのそれぞれへの責任追及にきちんと峻別すべきであり、高校野球のような連帯責任論に陥らないようにすべきだ。

  • 山中伸弥氏(米国立衛生研究所、2010年)
    山中伸弥氏(米国立衛生研究所、2010年)
  • 山中伸弥氏(米国立衛生研究所、2010年)

研究費不足や研究員の地位の不安定性

   もっとも、いろいろと背景を探ってみると、研究費不足や研究員の地位の不安定性などが背後にあるのかもしれない、という印象である。

   筆者は理系出身であり、財務官僚としては極めて珍しい経歴である。実際に、理系研究所などを予算で認めるときに、意見も聞かれたことも少なくない。

   研究者になるつもりであったので、基礎研究がいかに困難であるか、ということも知っている。一般論としていえば、基礎研究が「当たる」確率は、いわゆる「千に三つ」である。多くのは、トライするが上手くいかないものだ。しかし、「三つ」を当てるためには「千」のトライが必要なのも事実である。

   いってみれば基礎研究は、きわめて「打率の低い投資」であるが社会的にはやらなければいけないものだ。「三つ」の社会的な便益は極めて大きく、997の失敗のデメリットを補って余りあるからだ。

   そうした観点から、国の研究開発の費用は、投資案件の資金調達と同じく「国債」によるべきと主張してきた。まったく同じロジックが教育費にも適用できるので、教育国債という形で言うことも多い。

   実は、この考え方は、もともと財務省にあったものだ。財務官僚が書いた財政法のコンメンタール『予算と財政法』にも書かれている。

予算の重点配布は、どの研究が優れているか予め分かっていることが前提

   しかし、今の財務省はこの教育国債を決して認めない。筆者が、昨2017年5月に自民党本部で教育国債を説明すると、同じ時に財政審議会を開いて教育国債を否定し、マスコミにそれを報じさせるという具合だ。

   ネットでも教育国債の批判ばかりが目立つ印象である。書いている人はほとんど財務省の応援者ばかりだ。

   実は、本来恩恵を受けるべき大学関係者からも、教育国債を支持する声は聞こえてこない。大学関係者の中には、役所の審議会委員も多くいるが、財務省への「忖度」があるのかもしれない。筆者の邪推でないことを祈るばかりだ。

   実際の教育・研究開発予算では、投資という考え方は否定されている。投資と考えるなら、一定の予算を広く与え成果を待つ。しかし、今の予算では、「選択と集中」といい、税財源による少ない予算を重点的に配布する、となっている。

   これは、どの研究が優れているか予め分かっていることが前提であるが、そんなものは、やってみなければ分からない。まして、文系官僚が、どれが優れた研究なのか分かるはずがない。

   教育国債があれば、日本の教育・研究開発予算は今より年間数兆円も増額することができるので、教育・研究環境は格段によくなり、結果として研究不正も減るのではないだろうか。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「朝鮮半島終焉の舞台裏」(扶桑社新書)など。