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「Nスぺ」は売れっ子のノンフィクション作家 文春、新潮、講談社などから番組の書籍化続く

   「著者 NHKスペシャル取材班」という本が目立っている。文藝春秋、新潮社、講談社など大手の出版社から次々と単行本や新書が出ている。かつては年に数冊だったが、近年急増しており、この1、2年は年間15冊を超えている。

   放送界で数々の賞を取り、内容には定評のある「Nスぺ」。いまや出版の世界で最も売れっ子の「ノンフィクション作家」として存在感を増している。

毎月2冊のハイペース

   2018年1月は『老後破産: ―長寿という悪夢―』 (新潮文庫)と、『百寿者の健康の秘密がわかった 人生100年の習慣』(講談社)。さらに取材班スタッフの個人名で『告白――あるPKO隊員の死、23年目の真実』(講談社)。昨年12月には『NHKスペシャル 人体 神秘の巨大ネットワーク 第1巻』(東京書籍)、『日本人と象徴天皇』(新潮新書)、11月には『健康格差 あなたの寿命は社会が決める』 (講談社現代新書)、『人工知能の「最適解」と人間の選択』 (NHK出版新書)。

   このところ毎月2冊ほど刊行されている。今の出版界で、教養関係でこれだけのハイペースで本を出し続けている「著者」はいない。取材班は、いわば日本一多作で引っ張りだこの「ノンフィクション作家」となっている。

   「Nスペ」は1989年、前身の「NHK特集」を引き継いで放送が始まった。原則、毎週土日の夜に定時で放送し、放送時間を拡大することもある。年間90本ほど制作している。企画は主にNHK内の各部門から「提案」として上がり、取材班を組む。採用の「ハードルは高い」(NHK関係者)。

   スポーツ、芸能、科学、教養、社会問題と扱うテーマは多彩。番組は放送業界や文部科学関係の受賞はもちろん、優れた文化的活動を対象とした菊池寛賞の常連でもある。10年「無縁社会」、13年「深海の巨大生物」、14年「認知症行方不明者一万人~知られざる徘徊の実態~」、15年「カラーでよみがえる東京」「カラーでみる太平洋戦争」など近年とくに目立つ。

30%超の視聴率を記録した番組も

   過去には「オウム真理教~暴かれた"王国"の軌跡~」のように33.1%もの視聴率を記録したこともある。「荒川静香 金メダルへの道」なども20%を超えた。制作にカネ、ヒト、時間をかけているのが特徴とされ、中には1年前後取材するケースもあるという。実際に放送されるのは収集した膨大な情報の中の一部なので、取材班はたっぷり「ネタ」を抱えている。

   実際、「Nスペ」で16年に放送された「ある文民隊員の死~カンボジアPKO 23年目の告白~」を担当し、それを元に単行本『告白――あるPKO隊員の死、23年目の真実』(講談社)を書いた取材班の旗手啓介さんは、講談社のサイト「現代ビジネス」で書籍化した事情を説明している。

「制作者としては、心残りがあった。テレビドキュメンタリーという分野では往々にして起こることだが、放送時間の制約上、取材で得た膨大な証言や事実を削除せざるをえなかったのだ。映像と文字との違いはあるが、49分のNHKスペシャル(ナレーション部分とインタビュー)を単純に字数にすると、実は1万字にも満たない。400字詰めの原稿用紙にして25枚分ほどである」
「今回、その何十倍もの分量を遺す貴重な機会をいただき、ノンフィクション『告白』としてまとめることができた。突然召集され、カンボジアに赴いた75名の隊員たち、そして番組では紹介できなかった事件の関係者、重傷を負ったオランダ海兵隊員や、事件現場に丸腰で救援に駆け付けたスウェーデン文民警察官らのその後の人生をできるだけ詳細に綴っておきたかった」

「ネタ」と「筆者」が集まる宝の山

   近年、書籍化が目立つのは、出版界側の事情もあるようだ。出版不況もあって、ノンフィクションを対象とした雑誌は次々と潰れた。かつて活躍した団塊世代のノンフィクション作家も高齢化が進む。新たなライターを発掘して育てたり、経費をかけて取材したりする余裕が出版界全体に乏しい。安定した視聴率で多数の人に親しまれている「Nスペ」は簡単に書籍化できる「ネタ」と「筆者」が集まる宝の山なのだ。

   出版が加速することになったのは10年の『無縁社会』(文藝春秋)や15年の『老後破産』(新潮社)のヒットも影響しているようだ。単行本で出版された後、文庫化もされている。「Nスペもの」はすでに多くの人に視聴された番組の書籍化ということもあり、簡単に採算ラインを突破する本が多いようだ。

   漫画やアニメ、テレビドラマなどのヒット作をもとに小説化したものを「ノベライズ」というが、いまや「著者・Nスペ」本は「Nスペシャライズ」とでもいうべき一分野を築きつつある。出版社にとっては手軽に出版点数を稼げるという点でも魅力だ。

   気になるのは書籍化した後の原稿料だが、NHKに問い合わせたところ、「出版の経緯については、お答えしていません」とのことだった。