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山里亮太【4】ラジコが起こした革命
(ネットニュースに明日はあるのか 藤代裕之先生に聞く/全7回)

ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さん(右)と、J-CASTニュース名誉編集長・山里亮太
ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さん(右)と、J-CASTニュース名誉編集長・山里亮太

   J-CAST名誉編集長・山里亮太です。「文字起こしニュース」の在り方を考え、テレビのネットアレルギーを考え、そしてネットの広告問題を掘り下げてきました。

   4回目は、僕がメディアとしてすごいなと思っている「radiko(ラジコ)」についてです。「タイムフリー・エリアフリー・シェア」という画期的な発明は、ラジオをどう変えたのか――。今回は、そんなお話です。

   お話を聞くのは、ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さんです。先生、きょうもよろしくお願いします!

これまでの記事もチェック↓

【1】「文字起こしニュース」を根絶やしにしたい
【2】ネット軍団と共存するには
【3】テレビのネットアレルギー

「南キャン、文字起こしサイト買収?」

山里:僕、深夜にラジオをやっているんですけど(編注:TBSラジオ「山里亮太の不毛な議論」毎週水曜25時~27時)、ラジオ番組を毎回文字起こししているサイトがあるんですよ。
そのサイトがつぶやいたツイートは、結構いろんな人にリツイートされて結構拡散するんですけど。この間見たら、なんとTBSの公式のツイッターがリツイートしてるんですよ。おい何をやってるんだ!と(笑)。

藤代:(爆笑)。TBSさんが買えばいいんじゃないですかねそのサイトを。その運営者を雇っちゃえばいいんじゃないですか? 「どんどん書いてください。ただしその下には、リンクを貼ってください。ラジコ(※)とかのね」と。

   (※)ラジコ(radiko)とは...パソコンやスマホでラジオが聴けるサービス。タイムフリー機能を使えば、過去1週間以内に放送された番組が聴ける。

山里:あ、そうですよ! ラジコむちゃくちゃいいですよね。あれはありがたい! 「タイムフリー・エリアフリー・シェア」。あのシステムは、メディアとして本当にすごいことですよね。

藤代:ラジコができたんだから、そのラジオ文字起こしサイトもメディアのために働いてもらえればいいんですよ。書いてもらってその下にラジコのリンクを貼る! もう、そのサイトを南海キャンディーズで買っちゃうとか? 買収(笑)。

山里:買収!?

藤代:「南海キャンディーズ、ラジオ文字起こしサイト買収」(笑)。J-CASTニュースで特報!

山里:なるほど、たしかにそれは......記事になりますね(笑)。

元来ラジオは危険な香りがするものだった

山里:先生、話戻しましょう(笑)。ラジオがネットで発信するうえで光明があるっていう話ですけど。

藤代:ラジコみたいなアプリがでてきてどこでも聴けるようになったことは、ユーザーさんにとってスムーズな導線です。
ラジオの影響力ってテレビほどじゃない。だけど熱烈なファンがいるじゃないですか。それがラジオの強みなんですよね。メディアはマスかコアなファンがついているところしか生き残れないので。
ラジオはいいファンが付いているから強いですよね。その番組をシェアできるようになって、いつでも聴ける。この変化で、若い人も聴くようになったと思います。最近ラジコでラジオ番組を聴いている大学生も多いんですよ。

山里:ラジオって「旧世代のメディア」みたいに言われていましたよね。(以前は)若い人は聴かないと。

藤代:シーラカンスみたいなね。

山里:「生きる化石」感ありましたけど。

藤代:たしかに2000年代初頭は、悲壮な感じでしたけど、今ラジオ番組を作っている人に会うと、イキイキしていて、「ラジオらしい番組を作ろう」っていう活気がありますよね。「いいですねラジオ、面白いじゃないですか」とマスメディアの人会うと言うんですが、ボク、なかなか呼ばれないですけど。

山里:先生、生放送に出すと危険って捉えられているんじゃないですか(笑)。
でもね。それも思うんですけど、ラジオって本来、危険な香りがするもの、ズバズバ言ってくれる人のトークがラジオの醍醐味だと思うんです。それが悪意のある文字起こしで制限せざるを得ないのは不健康ですよね。
昔ある女性アーティストのラジオでの発言が事件めいた感じで文字起こしされて、それがリツイートされて、誰も放送を聞かないままその人は(芸能界を)干されてしまった。そういうことを防ぐことができるようになればいいんですけど。

藤代:逆にいうと、今は、炎上耐性がある人だけが生き残っているんです。でも、そういう社会はやっぱり不健全ですよね。どんどん書かれて、些末なことまで書かれると、発言するのを止めちゃうじゃないですか。それでも止めなかった人が生き残っていく。
最近の風潮としてあるのは、"謝らない者勝ち"というか。さんざん燃やし尽くされた中から立ち上がるような人じゃないと生き残れなくなっていると思うんですよ。

山里:ちょっと前ですけど、アイドルの子が結婚します、ってグループを卒業して。そのとき大きく叩かれましたけど、いまその子は、「私、ネットで叩かれています」っていうことでテレビ出てきて、挙句の果てに旦那とのラブラブ話をはじめて。今は世間からの「よくもまあぬけぬけと...」という炎の熱量で出続けていますよね。

暴走族が走らないプラットフォームを

藤代:まじめな話になりますけど、政治の世界も似たようなものだと思うんですよ。
安倍政権って強いじゃないですか。トラブルはあるけどなかなか支持率は下がらない。ずっと開き直っていますよね。あれって「炎上の中で生き残ったもの勝ち」というのがわかっているんじゃないか、と思うんです。その最たるものがトランプさんなわけですけど。

山里:トランプさんって、まだ影響力すごいですか?

藤代:すごいですよ。大統領自ら炎上するわけですから。世界中が反応するじゃないですか。一言つぶやけば、どこかの国の貿易が終わるぞ、みたいな。そりゃ目が離せないですよね。
でも、それってあまり健全じゃないなと思いませんか? 特定の影響力がある人が「右だって言ったら右」と世の中がなるのは怖いじゃないですか。そうじゃない社会にするために、考え直さなきゃいけない。プラットフォームや仕組みを考え直さなきゃいけないと思うんです。

山里:プラットフォームですか。

藤代:はい。プラットフォームと言われるツイッターやフェイスブックは、最近アメリカで批判されているんですよね。

山里:たとえばどんな感じなんですか?

藤代:プラットフォームって、誰でも使える、いわば「道路」みたいなものなんです。走りやすいね。「誰でも使えますよ。でも誰が走ろうが知りません」と、こういうわけです。ツイッターとか見ていると、いろんな人がいますよね?
でも、だんだんと「そんな走りやすい道路を提供している方が問題だよね」という風向きになっている。「きちんと暴走族が走らないよう整備してください」と。その考え方は、日本にも影響していると思います。

山里:それは先生のいうスポンサーを絞るとか、そういうことですか? そこを整備すればキレイなプラットフォームになっていくと?

藤代:そう思いますね。やっぱりフェイクニュースだらけのサイトにハイブランドの広告が出るのはまずいですから。(参考:ネット広告のロジックはブラックボックス

山里:そうはいっても、まだ世の中の人はプラットフォームをきれいにする必要性に気づいてないんじゃないかと思うんですが。

藤代:それはそう。本当に思います。

山里:なるほど。だからまだ、炎上ネタがパワーをもっているんですね。

Photo 中川容邦
(続く)

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【2】ネット軍団と共存するには
【3】テレビのネットアレルギー


藤代裕之氏 プロフィール
ふじしろ・ひろゆき 1973年徳島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期修了。徳島新聞記者を経て、NTTレゾナントでニュースデスクや新サービス立ち上げを担当。現在、法政大学社会学部メディア社会学科准教授。専門は、ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論。近著に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社新書)。