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山里亮太【5】「炎上ビジネス」が終わる日
(ネットニュースに明日はあるのか 藤代裕之先生に聞く/全7回)

   皆さん、こんにちは。ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さんのもとで、目下「ネットニュースの課題」を勉強中のJ-CAST名誉編集長・山里亮太です。

   前回のラジコの回(【4】ラジコが起こした革命)は目からウロコでしたね。まさか"買収話"までつながるとは......。やっぱり、藤代先生はすごいです。

   いよいよ5回目は、炎上ビジネスの"終わり"について。燃やすだけ燃やしてさようならする"あの軍団"にはどう立ち向かえばいいのか。僕の日頃思っている"疑問"からスタートです!

これまでの記事もチェック↓

【1】「文字起こしニュース」を根絶やしにしたい
【2】ネット軍団と共存するには
【3】テレビのネットアレルギー
【4】ラジコが起こした革命

芸能人とレポーターの関係

ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さん
ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さん

山里:僕思うんですけどね、炎上させてアクセスが増えて金がもうかる。でも、その先にある、"燃えた人たち"に対する冷たさって、なんだろうかと。燃やすことで金を儲けているなら、僕らはビジネスパートナーなんじゃないかと思うんですよ。
そのパートナーが1回燃えて、燃えカスになったら、次の人を探すというのは、結果的に自分たちの首を絞めていくんじゃないかと思うんです。

藤代:「焼畑」ですよね。芸能界を焼畑していますよね。
僕が、ワイドショーとか観ていて面白いなと思うのは、芸能人とレポーターの方の関係です。持ちつ持たれつですよね。忖度があるのかもしれませんが、お互いがウィンウィンにならないと、どっちも損するんです。

山里:そうですね。よく分かります(笑)。

藤代:でも今は(ネットの世界では)、「もうネットニュースは見ないで」って言っても、みんな見るじゃないですか。 だから、山里さんが「Aというサイトは見ないでほしいけど、Bというサイトはちゃんとやっているからこっちを見てよ」と、提示できればいいわけですよ。
でもこの"B"が、まだないんですよね。(お互いがウィンウィンになれるBが)作られていくと、芸能界の方とかが「まあ、これだけ書かれはするけれど、お互いリスペクトもあるし、得するよね」という仕組みができあがっていくと思うんです。 J-CASTニュースに恨みがある人は多いと思うんですけど(笑)、変わっていくと思うんです。お互い育て合いながら、良いメディアになればいいなとは思いますね。

山里:燃やすだけの記事がメディアの中心を歩くんじゃなくて、きれいなプラットフォームで、でもエンターテイメントとして盛り上げることもできる。そういうことが分かっている人たちが作るサイトがちゃんと生き残っていく――。今日はその一歩目に立てている、という確証がほしいなぁ。

新聞はゲスいメディアだった

藤代:そうですね。そこはやっぱり「歴史」って大事だと思うんですよね。新聞社も昔はとんでもない仕事だったんですよね。「イエロージャーナリズム」という言葉があるんですけど、今でいうと"ゲスいメディア"のことです。内容が薄い、センセーショナルな記事、時にはフェイクニュースを書き散らす、ということを昔は新聞社もやっていたんです。「イエロージャーナリズム」は批判を浴びましたが、ものすごく売れて、新聞の部数が急増し、新聞は大儲けするわけです。そうすると書く内容が変わってくるんですね。

山里:余裕が出てくる?

藤代:そう、余裕が出てくる。「ピューリッツァー賞」(※)という権威あるジャーナリズムの賞があるんですが、実はゲスいメディアの経営者、「イエロージャーナリズム」で批判された、ニューヨーク・ワールド紙を発行していたジョーゼフ・ピューリッツァーによって作られたものなんです。ピューリッツアーの遺産でコロンビア大学のジャーナリズム大学院が創設され、その中で賞もつくられたんです。「イエロージャーナリズム」で儲けても、尊敬されないじゃないですか。人間っていうのは不思議なもので、お金を儲けると、次は尊敬されたくなるみたいなんですよね。
芸能人もそうじゃないですか。昔は、お笑いでめちゃくちゃやっていたのに、最近はキャスターとかやっていませんか?

   (※)米国のジャーナリズムで最も権威ある賞のひとつ。アメリカのコロンビア大学が主催し、新聞等の印刷報道、文学、作曲に与えられる。1917年に創設。

山里:痛い痛い痛い、、、、、!!!!

藤代:昔はパンツとかずり下げていたのに、最近はなんだか"いい感じの人"になって、尊敬されるようになっている方とかいますよね。

山里:正直僕も、何年か前まではローションにまみれていたんですけど、今はスーツ着てこうやって先生としゃべっていますね(笑)。

藤代:ピューリッツァー賞が、ゲスいメディアで大儲けした人によって作られたという話、あんまり知らないですよね?

山里:知らなかったです(笑)。でも、そうやって新聞で起きたことが、今後ネットでも起こって、似たような道を行くんですかね?

藤代:昨年出した『ネットメディア覇権戦争』でも紹介したのですが、アメリカではグーグルなどがジャーナリズムにお金を出すようになっています。日本のネットニュースもゲスから、尊敬されるような存在に変化していきますよ。その変化の兆しを記した『ネットメディア覇権戦争』は予言の書のようなものです。どっかでころっと変わりますよ。

山里:急に? 徐々にではなく?

藤代:そう急に。準備していた者だけが生き残っていくと思うんですよ。

山里:もしかしたらJ-CASTも考えているんじゃなですか? カス丸も。

藤代:(カス丸は)なかなか狡猾なやつかもしれないですね。

山里名誉編集長と初対面した、J-CASTニュースのマスコットキャラクター「カス丸」
山里名誉編集長と初対面した、J-CASTニュースのマスコットキャラクター「カス丸」

ギリギリを狙えるリテラシーを身に着けろ

山里:先生の話を伺って思うのは、新聞は、会社に所属して働く人たちが作っているじゃないですか。「自分たちの仕事ってなんだろう」と考えて、意識が変わっていったと思うんです。でも、ネットニュースを書いている人たちの一部って、所属している意識もないから、文字起こしをするのは今までと変わらないと思うんですよね。
ひょっとして、拾う側(サイトの運営側)が、ピューリッツァー賞に憧れてじゃないですけど、変な記事は拾わなくなるようになっていくんですか?

藤代:そのためにはこれまで話したように、広告(参考:【3】テレビのネットアレルギー)と仕組み(参考:【2】ネット軍団と共存するには)が必要ですよね。

山里:そうか。(運営側が)この記事は魅力的な見出しだけど、ウチのサイトとしては整合性を持ちたいから、ソースを確認して、記事の元になっている番組に交渉します、と。そのうえで、番組から提供や許可を受けた元の音源や動画を、記事に貼って成立。じゃあ、掲載しましょうっていうことですね。

Photo 中川容邦
(続く)

これまでの記事もチェック↓

【1】「文字起こしニュース」を根絶やしにしたい
【2】ネット軍団と共存するには
【3】テレビのネットアレルギー
【4】ラジコが起こした革命


藤代裕之氏 プロフィール
ふじしろ・ひろゆき 1973年徳島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期修了。徳島新聞記者を経て、NTTレゾナントでニュースデスクや新サービス立ち上げを担当。現在、法政大学社会学部メディア社会学科准教授。専門は、ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論。近著に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社新書)。