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山里亮太【6】「正義」を振りかざす恐怖
(ネットニュースに明日はあるのか 藤代裕之先生に聞く/全7回)

   こんにちは。J-CASTニュース・名誉編集長の山里亮太です。

   日々ネットにあふれる「悪意ある文字起こしニュース」を根絶やしにできないか、という疑問から始まったこの企画もついに6回目です。

   前回は、炎上ビジネスの話から、「新聞は昔"ゲスいメディア"だった」という歴史にまで発展しました。いやー、勉強になりました。

   今回は、ニュースを扱う者として肝に命じたい、深~いお話です。

   教えていただくのは、ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さんです。

これまでの記事もチェック↓

【1】「文字起こしニュース」を根絶やしにしたい
【2】ネット軍団と共存するには
【3】テレビのネットアレルギー
【4】ラジコが起こした革命
【5】「炎上ビジネス」が終わる日

ネットニュースは儲からない

藤代:『ネットメディア覇権戦争』で指摘したかったのは、まじめにやればやるほど、ネットメディアって儲からないという構造なんですよ。

ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さん
ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さん

山里:そうか。だから適当なことをでっちあげるような、「バズればいいや」という感覚で書いちゃうんですね。

藤代:そう。そっちの方が得な仕組みなんですよね。だから、まじめな人がまじめにやって儲かる仕組みを作らない限り、フェイクニュースやヘイトはなくならないと思うんですよ。広告の世界はちょっとずつ変化が起きているんですが。

山里:そうなると、目指すべき仕組みは本当にシンプルですよね。「がんばった人がたくさん(お金を)もらえるようになる。それがこの世界の当たり前だよ」と、それだけじゃないですか。

藤代:仕組みが変わらない限り、世の中は変わらないですからね。

山里:フェイクニュースもそうですけど、でっちあげるような記事でアクセス数稼いでお金が儲かるそのルールを、一回変えていかないと。
たとえば、コンビニのアイスケースに入るバカなやつがいて、「なんてバカなんだ」と思いつつも、みんながアクセスすることで、結果そいつを紹介した記事を書いた人が儲かるとか、やっぱり不健康ですよね。

藤代:不健康なんですよ。芸能人の方ならまだしも、と言っては失礼ですが、一般人ですら、炎上してその後の人生めちゃくちゃになったりするじゃないですか。それって炎上して得する人がいるから、起こるわけです。彼らが得をしないような仕組みを作っていければいいですけどね。

山里:ああいうバカなことをする人たちを、みんな怒りたいんじゃないかと思うんですよ。
SNSが出てきて、1番思うのは、みんな人のことを叱りたいんだな、っていうことなんです。自分を正義のところに置いて、「人を叱りたい」っていう気持ちをくすぐって気持ちよくさせてくれるのが、ネットニュースじゃないですか?
だって、わざわざそういうネタを探しにいっているんでしょ? あんなバカなやつらを。

藤代:パトロール?

山里:そう、パトロール。それで「こんなバカなやつがいましたよ、怒りたいでしょ!」と、バカのツイートを記事に貼り付けて、そのアクセス数が上がる。でも、記事にされた人の人生はどうなろうが関係ありません、と。
それにお金が発生するというのは、もうね......。でも、それが終わるかもしれないなら、未来が見えるな。

藤代:終わっていかないと、自分もいつやられるか分からないじゃないですか。家族や自分が教えている学生が被害にあう可能性もある。パトロールしている人もいつ暴かれる側になるかわからない。
そのために、すごく思うのは、やっぱり儲からないとつらいじゃないですか。いいものを作ってみんなが「いいね!」っていって儲かる仕組みがないと。

山里:そうですね。

文春は「ねずみ小僧」なのか

藤代:もうひとつ! 今、山里さんがすごくいいこと言ってくれたんですけど、「正義」についてです。「正義」って怖いと思うんですよね。

山里:そうですよ。みんな「正義」の名の元に、一心不乱に誰かを攻撃するじゃないですか。

藤代:ニュースって「正義」に駆動されているところあるじゃないですか。僕も記者やっていたので、すごく思うことがあるんですが、「正義」を振りかざすやつにロクなやつはいねーなって。まだゲスい方がいいですよ、「正義」よりずっと。

山里:本当、そうですよね。

藤代:最近、違和感があるのが『週刊文春』とかが、"よくないことだ"みたいなトーンで不倫疑惑を暴くじゃないですか。そもそも、お前そんな媒体だったのか、と。ゲスメディアなはずなのに、正義面してやってきて「こういうこと、おかしいと思いませんか」って言うようになって、変わったなと思いますね。

山里:「ねずみ小僧」じゃないですけど、みんな『文春』が正してくれているって言いますよね。はたして、本当にそうなのかとは思います。

藤代:そうなんです。ネットユーザーが『週刊文春』に"ねずみ小僧的なもの"をみているような気はしていて。文春がやってくれるぞ、みたいな。
でも、もともとゲスメディアなので、彼らに「正義」を求めるのは間違っているんですよね、役割として。
「エロときどきまじめ」「ゲスときどきまじめ」なのが『プレイボーイ』とか『文春』とか『新潮』だったのに、ネットのおかげで「正義」の部分が肥大化して、彼ら自身がちょっとおかしくなっているんじゃないかなって思いますね。

山里:本(『ネットメディア覇権戦争』)の中で書いてらっしゃいましたけど、オリンピックのロゴ騒動のとき、ネットの人たちの「俺たちの勝ちだ」的なノリって本当怖かったですよね(※1)。

   (※1)2015年、アートディレクターの佐野研二郎氏がデザインした2020年東京五輪の公式エンブレムをめぐり、ベルギーのデザイナーが自作を盗作されたと訴訟を起こした。佐野氏は、盗作疑惑について全くの事実無根と否定したが、ネットでは過去の作品も掘り返し炎上する事態に。大会組織委員会はついに2015年9月1日、佐野氏がデザインしたロゴデザインの撤回を決めた。

藤代:振り返ってみても、とにかく「あれは悪いんだ!」という流れができると、いろんなことが暴かれて、バッシングされる。本当に怖いですよね。
文春の話に戻すと、最近ちょっと変わってきていると思うのが、ネットでは「文春ひどい」っていう意見が出てきていますよね。

山里:小室さん(※2)のときは特にそうでしたね。

   (※2)『週刊文春』が、2018年1月、音楽プロデューサーの小室哲哉さんの不倫疑惑を報道。それを受け、小室さんは1月19日に記者会見を開き引退を発表した。

藤代:正義の名の元にやっていると、「新しい正義」にやられちゃうんですよ。

山里:「ウチらゲスい雑誌でっせ」的なノリでやっていれば、「またそんなことばっかやって~」って、なりますけどね。

藤代:それが週刊誌のおいしいポジションだったと思うんですよね。お笑い芸人が時々いいことやる、みたいな感じで。

山里:ありますね。

ギロチンで首を斬るやつは自分が斬られる

藤代:そのうち文春も「正義」の名のもとに断罪される日も近いんじゃないかと思うんですよ。断頭台に送りこんでギロチンで首を斬るやつは、次に斬られるのは自分なので。

山里:過去の歴史を見てもそうですよね。

藤代:斬っているやつは楽しいかもしれないけれど、次ギロチン台に送られるのは自分だぞ、と。(山里さんも名誉編集長としてニュースに携わっていくわけですが、)正義の名の元にニュースをつくるっていうのは止めたほうがいいんじゃいかと思いますね。

山里:それは本当に肝に命じます。今お話を伺って、僕も正義面しているかもしれないと思いました。ベッキーのことだって、みんなそこまで叩かなくてもいいんじゃないかと思いつつ、『文春』の発売を待っていた自分もいたので(笑)。

Photo 中川容邦
(続く)

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【2】ネット軍団と共存するには
【3】テレビのネットアレルギー
【4】ラジコが起こした革命
【5】「炎上ビジネス」が終わる日


藤代裕之氏 プロフィール
ふじしろ・ひろゆき 1973年徳島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期修了。徳島新聞記者を経て、NTTレゾナントでニュースデスクや新サービス立ち上げを担当。現在、法政大学社会学部メディア社会学科准教授。専門は、ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論。近著に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社新書)。