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米社会派ソング真似た「This is Japan」 「薄っぺらすぎ」と叩かれ削除に追い込まれる

   「This is Japan」。ある日本人ダンスグループが制作した1本のパロディ動画が、インターネット上で激しい批判に晒され、公開からわずか1日で削除に追い込まれる騒動があった。

   いったい、何が問題視されたのか。多くの音楽ファンの反発を招いた理由は、今回のパロディ動画の「元ネタ」となった楽曲が、アメリカにおける黒人差別などの社会問題を風刺した話題作「This is America」だったことにある。

  • 批判が相次いだ「This is Japan」動画の一場面
    批判が相次いだ「This is Japan」動画の一場面
  • 批判が相次いだ「This is Japan」動画の一場面

投稿者は「流行りに乗ってみた」

   このパロディ動画は、3人組のダンスグループ「Alaventa」が2018年6月4日に各メンバーのツイッターで公開したものだ。「Alaventa」は各メンバーがコンテストでの入賞も果たすなど、若手の実力派。元ネタのミュージックビデオ(MV)を意識したつくりで、バックには原曲の「替え歌」が流れる。

   動画の冒頭では、「This is Japan」のフレーズと共に、「おもてなし」「インスタ映え」「スタバでストーリー」「マジ卍」など日本の若者文化を紹介。楽曲のアウトロ部分では、3人が動きの揃ったダンスを披露している。

   こうしたパロディ動画について、「Alaventa」リーダーのSANTAさんはツイッターで、「流行りに乗ってみた」と紹介。その上で、

「海外でヒットしているこの曲を! ピースで温かいこの国で例えてみました」

とも伝えていた。

   しかし、彼らが動画を公開した直後から、元ネタの楽曲に込められた重く切実なテーマとのあまりのギャップに怒りを露わにするネットユーザーが続出。ツイッターには、「あまりにも内容が無い」「本家に比べて薄っぺらすぎ」といった批判が相次いで寄せられた。

   「This is America」は、チャイルディッシュ・ガンビーノのステージ名で活動するラッパー兼俳優のドナルド・グローヴァー氏(34)が5月5日に発表した楽曲。YouTubeで公開されているMVは、わずか1か月で2億4000万回以上再生された話題作だ。

音楽評論家も苦言

   原曲のMVには、グローヴァー氏が無防備な黒人男性やコーラス隊を銃殺するシーンが。その度に、「This is America(これがアメリカだ)」「Guns in my area(近所に銃がはびこっている)」といったフレーズが歌われる。

   楽曲やMVの中には、実際に起きた黒人の銃殺事件などを彷彿とさせる表現がいくつもあり、アメリカ中で盛んな考察や議論が交わされた。日本でも、ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」の後藤正文さんが、自身のウェブサイトで和訳を公開し、

「衝撃受けますよね」「自分のヌルさに反吐が出る」

などと称賛の言葉を送っている。

   こうした社会的なテーマを扱った原曲だっただけに、今回の「日本版」パロディ動画の内容には、多くの音楽ファンが厳しい目を向けたのだ。実際、公開翌日の6月5日には、ツイッターの流行語を表すトレンド欄にも「This is Japan」が登場したが、その反応は総じて批判的だった。

   パロディ動画に苦言を呈したのは一般のユーザーだけではない。音楽ジャーナリストの柴那典(しば・とものり)さんも、現代ビジネス(ウェブ版)に6日朝に寄稿したコラムで、

「もし本気のパロディとして『This is Japan』という動画を作るならば、インスタ映えする華やかな写真を撮り笑顔で踊る若者たちの後景には、過労死や全体主義や情報の隠蔽を示唆するイメージがあってしかるべきだろう」

と指摘していた。

「痛烈な風刺なのでは?」との声も

   ただ一方で、日本における社会問題には一切触れず、「インスタ映え」「マジ卍」などの若者文化だけを取り上げた動画の内容を、逆説的な「風刺」として捉えるユーザーも。ツイッターには、

「This is japan 上部だけで本質を見ない 日本人への強烈な風刺なんじゃないか」
「案の定Twitterでボッコボコに叩かれてる一連の流れが名実ともにthis is japanって感じ」
「製作者の意図や真意はさておき、日本の社会を抉るほど痛烈に風刺するメディアアートとして機能してしまっている」

といった声も飛び交っている。

 

   こうしたネット上での様々な反応を受けてか、今回の「This is Japan」動画は5日夕までに削除された。なおJ-CASTニュースでは5日午後から、動画を公開したダンスグループ側に対し、制作意図や狙いについて取材を依頼していたが、翌6日16時までに回答はなかった。