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山里亮太の「働き方改革」で日本ダメにならない?(1) サイボウズ青野社長が答えた

サイボウズ青野慶久社長(右)と、J-CASTニュース名誉編集長・山里亮太(サイボウズ本社にて)
サイボウズ青野慶久社長(右)と、J-CASTニュース名誉編集長・山里亮太(サイボウズ本社にて)

   こんにちは。J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太です。いきなりですが、みなさん仕事をしていて「働きやすい職場だな」と思うこと、ありますか。「早く帰れる」「休みが取れる」。当然大事です。

   いろんな知人の話を聞いていると、働きやすさってそれだけではなさそうです。その日やらなきゃいけない仕事が終わらないのに、あるいはスキルアップのためにもうひと頑張りしたいのに、「残業させてくれない」「帰らないといけない」と言う人もいたりして......。

   いま大議論が起きている「働き方改革」も一筋縄ではいかず、是非がありますね。「正解」なんてないのかもしれませんが、できるだけみんなが働きやすくなるには、どうすればいいのでしょう。

   そこで取材したいと思ったのが、サイボウズという会社の青野慶久社長です。「100人いたら100通りの働き方」があっていいという考えをベースに、働き方改革を進める第一人者です。青野社長自ら育児休暇も取得しており、「働きやすさとは何なのか」を尋ねるには、これ以上ない人物だと思いました。

   今回僕は「いち労働者」として、働き方改革について気になることを聞きました。ちょっとイジワルな質問も交えたつもりですが、青野社長はことごとく理路整然と答えてくれました。目からウロコが落ちまくりです。

   最後に読者の皆さんへのアンケートも用意したのでぜひ参加してください!

自分の意志で働きたい人は働ければいいのに...

山里: テレビ業界も、僕らの時代はいわゆる"ブラック的な働き方"が多かったんですけど、最近「働き方改革」によって変わってきていると思います。でも"ひずみ"もあるように思っていて、逆に僕らテレビ業界には不向きなんじゃないかなと。「働き方改革で日本ってダメになっちゃうんじゃないですか?」というのを、お伺いしたいんですけど。

青野: なるほどね。今、働き方改革が単に「全員残業するな!」という感じがあって、合う人はいいけど、合わない人はまた不都合が出ていますよね。もちろん、ダラダラ残業やって生産性低いというのは、変えた方がいいんですけど、一律に(残業が)ダメといわれたら相当働きづらい。「○時以降は絶対に残業してはいけない」って、ちょっとやりすぎですよ。

山里: 強制されてではなく、自分の意志で働きたい人は働ければいいのに、それもダメというルールじゃないですか。人によってはデメリットだけあってメリットがない状況になっているような気がします。たとえば、テレビのAD(アシスタント・ディレクター)さんにこんな話を聞きました。スキルアップと経験のために「休日も現場について行かせてください!」と上司に申し出て、「休め」と言っても聞かないからOK出したらしいんですよ。そうしたら別のADさんが「俺も頑張らなきゃいけなくなるからそんなのダメですよ!」って上司に言って、止めさせたんです。僕、それって成長を邪魔してないかなと思ってしまって。

青野: 休みの日に現場に行くのもアリだと思うし、プライベートの時間をつくるのもありだと思います。ただ問題は、最終的に「給料」につながることです。休みを潰した人の評価が上がった瞬間に、プライベートの時間を取った人が不利になる。なので、働き方改革の本丸は「給料をどうするか」なんですよね。
今の日本の給与制度は残念ながら、時間に紐づいていますよね。「時給」も「年功序列」もしかりです。フルタイムでさらに残業した人が出世するような制度です。「時間と給与の切り離し」を最終的にやらないと、長時間働く人に引きずられるモデルができちゃう。
たとえばプロ野球選手は「時間」は関係ないでしょう? どれだけ練習したかではなく、試合でどれだけ打ったかで次の年俸が決まる。企業の給与がああいう形になれば、夜遅くまで体を削ってでも練習=仕事をすることはなくなります。

過大なノルマがあるのに「早く帰れ」と言われたら?

山里: でも、自分の才能の限界を考えて、野球で言えば「俺は大谷翔平ではないから、大谷が寝てる時間もバットを振り続けるしかない」という人もいます。それがダメと言われるとキツイですよ。

青野: そうですね。ただし落ち着いて考えてみると、夜中にバットを振ってもあまり良いことはないじゃないですか。体は「超回復」(編注:筋力トレーニング後に休息をとることで、休息の間に筋肉の総量 がトレーニング前よりも増加すること)と言って回復の時間がないと強くなりません。『巨人の星』を見て育っちゃうと、24時間「大リーグボール養成ギプス」をつけたら強くなるのかなって考えてしまいますが、実際強くならないわけですよね。

山里: 飛雄馬もねー、最終的にはあまり大成しなかったですからね(笑)。

青野: なので僕たちも「時間をかければ成長する」っていうのは実はイコールじゃないかも、と気づかないといけないですね。

山里: う~ん、それは難しいところで......。才能ある人たちはその理論でいけますけど、必ずしもそういう人ばかりではなくないですか? 働く人間の立場からすれば、過大な目標(ノルマ)を持たされていて、なのに早く帰れと言われるんですよ。僕たち"普通の労働者"はどうやって仕事と向き合えばいいですかね。

青野: 振られた目標が、今の制約で無理だったら「無理です」と言ったらいいと思います。会社に言われたことに従わないといけないと思いがちですけど、使用者と労働者の立場は逆転しつつあります。人手不足がありますからね。「無理です」と言える日本人を増やしたいなと思うし、そういう人が増えてくると、世の中はもっと変わると思っています。
歯を食いしばって我慢して、サービス残業しながら目標達成していたら、本当に何も変わらない。ある意味、経営者の思うツボですよ。

山里: なるほど。「無理だ」と言えないから古い体制がずっと残り続けているんですね。

青野: そうなんです。言った方がいいです。

山里: ただ、それで給料減らされるんじゃないかと、みんな思ってしまいます。

青野: 「じゃあ転職するぞコノヤロウ!」と言ってやればいいんですよ。人手不足ですから、経営者が本当に困るのは辞められることです。人がいなくなることが、昔より遥かに大きなダメージです。搾取されていた人たちが自己主張できるようになってきてるんです。

山里: 大きな声で主張すればいいと。

「採用力」をあげた会社が生き残る

青野: そうなんですよ。ちょっと商売の話になりますけど、今、どの経営者も悩んでいるのが「人手不足」なんですよね。この人手不足の中では「採用力」を上げた会社が、生き残れる確率は上がりますよね。
「あの会社で働きたいな」と思われる会社にした方が人は集まる。逆にそれができない会社は人が集まらなくなり、縮小するしかない。つまり「働きやすい会社」にしておいた方が商売上も有利です。

山里: わかります。

青野: そこで「働き方改革」をどう生かすかですけど、このタイミングで働きやすい会社を作っていくと、採用力もあがり、定着力もつく。つまり人が辞めない会社になっていきます。だから働き方に注目が集まっていることは、目を"¥マーク"にして言うと「商売のチャンス」なんです。

山里: 働き方改革で厳しい条件を出された中、どう勝ち抜くかという方法を考えることがチャンスってことですね。

青野: 人手不足の時代に多様な人を集め、定着させられる会社が生き残る。それができずに「ブラックで何が悪いねん!」って対応できずにいると、申し訳ないけど潰れるよということです。
それと、働く人それぞれの意識も重要です。これが、「21世紀型のキャリア」の作り方なんですけどね。

山里: 21世紀型のキャリア、ですか?

   次回は、「21世紀型のキャリア」について詳しく語っていただきます。働き方改革が叫ばれるこの時代、働く人は具体的にどのように行動していけばいいのか、サイボウズ社の成功例も交え、ヒントを探ります。前々回も話題にのぼった同期芸人の「あの人」の話も、また出てきますよ。

   次回は、6月20日(水)公開予定です。

(続く)


プロフィール
青野慶久(あおの・よしひさ)

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーも務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある。