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東芝「自社株買い」が示す 「株主への配慮」と「手詰まり感」

   東芝が「自社株買い」を実施する。ついこの間まで、債務超過で東証上場廃止の危機にあった会社がどうして自社株を買うことが可能になったのか、そもそも何のためにそんなことをするのか。

   東芝が2018年6月13日に行った発表によると、自社株買いの規模は7000億円で、どの時期にどの規模で買うかは今後検討するといい、18年度だけでなく19年度にかけて行う可能性があるとしている。

  • 自社株買い理由とは(画像はイメージ)
    自社株買い理由とは(画像はイメージ)
  • 自社株買い理由とは(画像はイメージ)

増資と半導体メモリー事業の売却

   自社株買いとは、手持ち資金で自社の株式を自ら購入すること。市場に出回る株式が減り、1株当たり利益が増える。株式市場で株価を考える指標になる株価収益率(PER)は、株価が1株利益の何倍かを示すもので、自社株買いをすれば発行済み1株あたり利益が増え、株価上昇が期待できる。普通は、儲かって手元資金が豊富な会社が行う「株主還元策」だ。

   東芝にそんなお金があるとは、少し前なら考えられなかったが、この間、2つの資本増強策を実施し、潤沢な資金を得た。6000億円の増資と半導体メモリー事業の売却だ。

   東芝は、不正会計と米原発事業の破綻で2017年3月末で債務超過に陥った。18年3月末に解消しないと東証上場廃止になり、経営危機が深まる恐れがあった。

   そこで打ち出したのが半導体メモリー事業の売却で、米投資ファンド、ベインキャピタルを中心とする日米韓連合に2兆円で売却することが2017年9月に決まった。ただ、各国独占禁止当局の承認が必要で、中国の承認が18年3月末には間に合わず、正式に売却を終えたのは6月1日だった。これで東芝は9700億円の売却益を手にしたが、これだけなら、3月末の時点では債務超過解消は果たせず、上場廃止になるところだった。

   半導体売却が間に合わないことを見越し、急きょ実施したのが増資だ。2017年11月、経営に口を出す「もの言う株主」として知られる海外投資ファンドを含む第三者を引き受け先に、1株262円80銭で22億8300万株を新たに発行し、6000億円の資金を得た。これで18年3月末の債務超過は解消でき、メモリー事業売却は6月1日に完了し、その売却益は手つかずで残ったわけだ。

株主総会対策か

   メモリー事業は東芝の営業利益の9割を生み出す稼ぎ頭で、これで得た資金をどう使うかが東芝の未来を決することになる。売却完了時、成長分野への投資に振り向ける原資を得たというのが一般的な評価だったが、かといって、直ちに有望な投資先がゴロゴロあるというわけでもなく、巨額な資金を無為に寝かしておくことになる懸念も指摘された。

   そこで声をあげたのが、増資に応じた株主など海外ファンドだった。自社株買いを求める声が相次いで東芝に寄せられ、中には「1兆1000億円」といった具体的数字をあげて実施を迫るファンドもあったという。

   もちろん、東芝も一定の株主還元策は検討してきたが、7000億円という巨額の自社株買いは、市場でもサプライズと受け止められる規模だった。このタイミングで、この額の自社株買いを表明したのは、6月27日に予定している株主総会対策と見る向きが多い。総会を波風なく乗り切って、経営再建を円滑に進めたいとの思惑があったのは間違いなさそうだ。

   東芝は今後の事業の柱として、人工知能(AI)などを活用し、エネルギーやインフラなどの分野で、機器を売るだけでなく、納入後の保守やサービスで継続的に稼ぐ方針を示す。また、半導体でも、メモリーはなくなったが、電気自動車(EV)向けのパワー半導体などは残っており、需要の伸びが期待できるという。ただ、どんな分野であれ競合各社も同様の取り組みを強める中で、継続的な投資が欠かせない。大胆な合併・買収(M&A)が必要な局面も出てくる。ただ、全体として、具体的な戦略はなお明確ではない。

   今回の自社株買いは、長期的な成長戦略よりも、影響力を強める「もの言う株主」への配慮を優先した形で、「新たな成長への手詰まり感」(大手紙経済部デスク)を印象付けることになった。