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山里亮太の働き方改革で日本ダメにならない?(3) テレビに出まくる僕の働き方は「遅れてる」のか

   売れている芸能人というはテレビにバンバン出ます。「テレビで見ない日はない売れっ子」なんて言い方もされますね。

   でもサイボウズの青野慶久社長の話を聞いていくと、「今の時代、活躍の場はもはやテレビに限らないかも」という気がします。実際、テレビでまったく見ないのに、めちゃくちゃ"売れている"芸人仲間もいるんですよね。しかも、自分の力で。

   今回は「働き方改革」を具体的な業界で考えるにあたり、僕が働くテレビ業界から話を進めていきます。

山里亮太J-CASTニュース名誉編集長
山里亮太J-CASTニュース名誉編集長

テレビに出ずに何十倍も稼ぐユーチューバー

山里: 「みんな自分で生き方を考えないといけない時代」。これが本当の働き方改革をするにあたって土台になるんですかね。

青野: そう、まさに。テレビの世界でもそろそろ危機感出てきたんじゃないですか? (動画配信サービスの)ネットフリックスのような新サービスがここまで普及してくると、「あれ、もしかして俺たちのやり方古いのかな」って。

山里: そうですね。視聴者がお金を払って、好きな時に好きな番組を見る形の"テレビ"が出てきましたから。あとはユーチューバーですよね。すごく稼いでいるじゃないですか。僕らテレビに出ている人間より何十倍も稼ぐ人もいるでしょう。

青野: テレビに出ずにねえ。

山里: そうなんです。そういう意味では僕らは「遅れている」のかもしれないな......。

青野: 今のテレビ業界はどんな感じなんですか?

山里: 動画配信サービスは表現も自由度が高いですよね。テレビは無料であっちは有料という違いはあるんですけど、それを忘れてテレビに物足りなさを感じてしまう視聴者も出てきたりして。中には「テレビはもうダメだ」みたいなことを言いだす人も出てくるんですよ。そうすると、スポンサーはどんどん離れていくし、テレビ業界にはお金が無くなってくる......。でも現場では、「予算はないけど、努力と知恵を振り絞って何とか面白い番組を作ろう! ただし働きすぎないで!」と要求される、みたいな。

サイボウズ青野慶久社長
サイボウズ青野慶久社長

青野: 制約が厳しすぎますね。

山里: そうなんですよ。テレビ業界の「働き方改革」を考えると、こういう危機感があって。どうでしょう。テレビ業界はどういう風に変わっていったらいいか、ご見解はありますか?

青野: ネットフリックスのようなチャレンジしているところから学んで、ビジネスモデルごと変えないといけないですね。今は「茹でガエル」のようにズブズブと熱湯に沈んでいっているのに、歯を食いしばって耐えている状況ですよね。
でも、ちょっと待てよ、と。もしかしたら最初は大変かもしれないけど、熱湯の外に飛び出た方が楽なんじゃないか、ネットフリックスのような、新しいサービスを始めた方がラクして儲かるんじゃないか、という発想と決断が必要です。
新興サービスの利点に気付くテレビ局が出てくると、他局も「あそこ、なんか上手くやってるぞ!」と無視できなくなってきます。

山里: 同調してどんどん追いかけ、その結果、業界のビジネスモデルが変わることになるんですか?

青野: すでにテレビに出ていなくも稼いでいる芸能人の方がたくさんいらっしゃいますよね。有料ブログやオンラインサロンを開設して、ファンから月1000~2000円直接もらう、というビジネスモデルもできるでしょう。

個人の力で直接ファンとつながる

山里: その話で僕思い出したんですけど、「くじら」がそうだったなあ。いろんな釣り人のモノマネを持ちネタにしている芸人がいるんですが。

くじらさん
くじらさん

青野: ニッチ芸人さんですね。

山里: 超が付くニッチ芸人なんです。けど、とんでもない「引き出し」があって、恋愛相談のアドバイスするのがめちゃくちゃうまいんです。
言っちゃ何ですが、顔はブサイクなんです。眉毛がつながっているようなね。にもかかわらず、恋愛相談が心に刺さるというので人気なんです。恋愛サロンを始めて会費をとっているんですが、それが当たっています。テレビだ何だと関係なく、彼個人の力で直接お客さんとつながってお金をもらっているんです。

青野: 頭いいですねえ。恋愛相談力というブランドを一度作ったら、あとは食べていくのは結構楽だと思います。

山里: 「恋愛マスター」を名乗って指南本も出しているんですよ。何がムカつくかって、嫁がまたキレイなんですよ!

青野: 説得力があります(笑)。

昼間にバスケやってるアップル

山里: これまでのお話の中に、いろんな答えが散りばめられていると思うのですが、なんでそれが浸透しないんですかね。

青野: 日本の経済が沈没してくるとみんな気付くと思います。米国のシリコンバレーに行ってみると面白いですよ。アップルに行ったら、平日昼間にみんなでバスケットボールやっているんですよ。それでいま時価総額世界1位ですよ。何かおかしいと思うじゃないですか。歯を食いしばって働いている俺たちは一体何なんだって。
そうすると、ちょっと考え方が変わると思います。

山里: 沈没しかけると見えてくる。今おっしゃっているような新しい形の働き方改革がなされたら、その不安に対して明るい光が差すと思って大丈夫なんですか?

青野: 大丈夫だと思いますし、日本の経済は全然沈没しないと思いますよ。楽観的に見るとまだ余裕がある。ただし時間がかかってしまっています。「茹でガエル」と同じで、もう熱くてたまらん!となったら飛び出すじゃないですか。今はまだ熱湯になりきってない。

サイボウズ本社にて
サイボウズ本社にて

山里: となると、日本もそれこそシリコンバレーみたいに急に発展することもある?

青野: あるかもしれない。日本人の同調性はすごいです。スイッチが入った瞬間にすべての茹でガエルが飛び出すかもしれません。

山里: 変革が起きるかもしれないんですね。でも、IT系の企業だけということはないですか? 他の企業・業界にもこの話って適用されるものですか?

青野: 温度差はあると思います。グローバル競争にさらされている企業は早いでしょう。海外、特にインドや中国が参入してこないような業種では、危機感は生まれにくいかもしれないですね

山里: では仮に変革が起きた時、僕ら雇われている人々はどう振る舞ったら、この先、生き残れるんでしょうか?

青野: 「引き出し」を増やすのがいいと思います。

山里: やっぱり「副業」ですか~。

(終わり)


プロフィール
青野慶久(あおの・よしひさ)

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーも務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある。